観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

愛のさかあがり(1987)とり・みき

平凡パンチに連載されていた、漫画家とり・みきのコミックエッセイ。

ミキヲちゃんというキャラクター(ほぼ本人)が主人公で、相方としてタキタくんというおっさんが登場するが、それは近所の書店BOOKSオリーブの店員田北監生という男で実在のとり・みきの友人である。

かれらが街を放浪しながら不思議なものを探していくという体裁で、ちょっと変わったものを取り上げるという漫画エッセイになっている。

最初の方は、目黒区にある寄生虫博物館に行ったり、そこで見かけた小学生たちに流行りのアイドルを聞いたり、仲間内の温泉旅行に行ったりととりとめもない話が多かったのだが、2つの大きな流れがこのコミックにやってくる。

そのうちの一つは「痛い話」。

話として相手に痛さが共感として伝わる内容であることと、マジもんの闘病とかはダメ、という縛りで一般視聴者に募集し、すごいのがいろいろと集まってきていた。

ぜひここで紹介したいのがあるのだが、やっぱりルール違反だよな・・・

もう一つが「オジギビト」である。

オジギビトとは、工事現場によく掲げられている鉄製の看板に、ヘルメットをかぶったおじさんやお兄さんが「ご迷惑をおかけしております」とお辞儀をしている絵を見かけたことがあると思うがそのアレだ。

これをとり・みきは「お辞儀している人=オジギビト」と名付け、収集家となったのであった。

実はあれも一度注目してあちこちで見てしまうと、さまざまな種類がありつつ、明らかに系統発生しておりいくつかのタイプに区分される。

お辞儀をしているタイプの他に、通ってはいけません、と両手を広げる弁慶型、手のひらをこちらに突き出して「いけない!」と見え切り型などがあり、その世界も奥が深い。

そしてこれが縁で、以前紹介した赤瀬川源平たちが進めているトマソン等の同好の士が集まり、「路上観察学会」を設立されていたが、この会員に勧誘され、入会するのだった。

学会ではトマソンオジギビトの他にも、ハリガミ考現学の人、建築探偵の人、江戸文化風俗の研究の人、東京女子高生制服図鑑を作った人など、バラエティに富んだ、でも本流ではないサブカルチャーとしての興味対象を学問に突き詰めたそうそうたるメンバーがそろった。

学士会館で決起集会が開かれたが、すでにこの会が真面目な学問のものではないことが学士会館側にも漏れ、写真撮影の時は「学士会館」が入らないようにしろなどと、いちゃもんを付けられたほどであったとか。

この、ある出来事に対するとらえ方というのが人によってだいぶ違い、ある人にとっては単なる町の風景に溶け込んで意識すらしない対象なのが、ある人にとっては非常に面白く興味が出てきて事例を集めたくなってしまうものであるというのが、この漫画を通じて高校生時代の僕は学んだので、自由な視点を持つという意味ではありがたい漫画であった。

ただ、おかげで本流ではなく常にちょっとおかしなことととか変なことを率先して注目するようになってしまったのだが、当時はVOW(おかしな看板やトマソン的なものの写真を募集して掲載する、宝島のムック本)がすごく流行っていたので、時流としてああいうものがもてはやされていたのも事実。まあ、しょせんは僕もつまらんマジョリティだったということなのかな。

 

 

 

 

マイ・インターン(2015)

一時期AmazonプライムビデオでやたらCMを流していたので何となく見た。

ロバート・デ・ニーロアン・ハサウェイのビジネスヒューマン映画。

ベンはそれなりな会社で要職についていたが引退してしばらくたつ。

いろいろな趣味を見つけようと頑張ってきたが、何をやっても生活に張りが出ない。やはり社会に出なければ、とシニア雇用をしてくれそうな会社に、慣れないビデオ撮影をして動画履歴書を提出する。

ジュールスはファッション通販会社を自力で立ち上げたやり手社長。忙しくも充実した会社生活、最愛の子供に、育児を全面的に買って出てくれている千行主夫の夫とプライベートも充実。しかし仕事が忙しすぎて手が回らなくなっているのも事実であり、同僚からは社外取締役の導入を勧められて気が乗らない様子。

そんな中にシニア雇用枠で入ってきたベンは、ジュールス付きのアシスタントとして勤め始める。

最初は何もやらせるつもりはなく、期待もしていなかったジュールスだが、控えめながら機転が利き仕事も細やかで速いベンに次第に感心するようになっていく。

時にはあまりにも気が利きすぎて疎ましく感じ、彼を遠ざけようともしたが、次第にベンはジュールスにとって、公私ともになくてはならない相手になっていく・・・

おっさんと美人社長が恋愛抜きで仕事のパートナーシップ及び友情を育むという話で、これだけ仕事がそつなくできて人当りもよくて察しがよいおっさんならこうもなるだろう。

Amazonのレビューでも「感動の友情!」みたいなコメントをしている人が相当数いらっしゃって、いい話だなあと確かに思った。

しかし、僕自身が相当なおっさんだから敢えて言うが、こんなパーフェクトなおっさん世の中に存在しないから!

見栄えがよく、おしゃれで、品があり、控えめで、知的で、有能で、察しがよく、(たぶん)臭くない。

アン・ハサウェイのような絶世の美女に友情を感じさせるようなシニアはこれらが完璧でないと無理。

マイ・インターン(字幕版)

マイ・インターン(字幕版)

  • 発売日: 2016/01/13
  • メディア: Prime Video
 

 

とり眼ひとの眼(1989)とり・みき

漫画家とり・みきのエッセイ集。

エッセイ集と言いつつ、この本のかなりの割合が原田知世で占められている。

当時、とり・みきを含む若手SF業界の関係者の間で、「時をかける少女」という大林宜彦監督作品がめちゃくちゃ流行った時期があり、彼らはみな原田知世の美しさに酔いしれ、全員プロなのに非売品の同人誌を作ってしまうほどだったとか。

本エッセイの前半では、「天国に一番近い島」という原田知世・大林宜彦コンビの次作の撮影の様子を綴っている。

といってもスタッフとして同行したというよりは、たまたま休みが取れてSF仲間とどこかバカンスでも行きたいねと話していた際、「どうも知世が映画の撮影でニューカレドニアに行くらしい」という話を聞いて、迷惑だとわかってはいるが、でもやっぱり行っちゃおうということで、自分たちもニューカレドニアに行くということにした、その旅行記となる。

厳密にはとり・みきはその後映画の中で使用される壁画を公式に依頼されることになるので、スタッフと言えばスタッフと言えなくもない立場に昇格したのだが、さらにそれが縁で、とり・みきを含む4人は映画のエキストラとして出演することになったのであった。そのメンバーは、河森正治超時空要塞マクロスの監督)と出渕裕戦隊ものの怪人やロボットアニメのデザイナー)と、アニメの進行をやっている益子氏。

撮影の様子、エキストラ、役者の方々との交流、ニューカレドニアの気候風土や歴史の紹介、彼ら4人の旅や壁画の話などがテンポよく配分よくまとめられており、独特のギャグがちりばめられた巧みな文体は何度読んでも飽きない。

正直、この人のギャグマンガはあまり面白いと思ったことがないのだが、エッセイは筆致が冴え渡る名編が多い。

エッセイ漫画「愛のさかあがり」は面白かったが(近いうちにここでも取り上げよう)・・・ノンフィクションの方が肌に合う感じ。

 

第二次脱出計画(1988)かんべむさし

 徳間書店が月刊誌として発行していたSFアドベンチャーで連載していた半自伝的小説。

主人公はペンネーム「なんのぼうし」。大学で広告研究会に入り、広告業界に入りたい入りたいと学生時代から念じ続けており、なんとか入れる広告代理店に就職したのだが、どうやら自分が思い描いていた世界ではなさそうなことに徐々に気づく。

その後自分がやりたいことをやらせてもらえる場所を求めて転職するのだが、そこではそりの合わない上司と出会ってしまい、また苦汁を舐めることになるが、たまたま趣味で書いていたSF小説が賞を取り、小説家「なんのぼうし」として会社を辞め、独立し文章で食べていくことになった。

しばらくは調子よく小説を書いていたのだが、今度はこの世界でも、なにやら自分の常識が通用しない人たちが周りを取り巻いており、徐々にその包囲網が狭まっていることに気づくのだった・・・。

この小説はおおよそ「広告代理店のサラリーマン時代」と「小説家の時代」に分かれており、それぞれの世界から「脱出」を行った経緯が書かれている。

第一次脱出はもちろんサラリーマンから小説家への転身なわけだが、第二次脱出とは何なのか、というのがストーリーの主軸。

今この年齢になってから読み返すと、第一次脱出については正直サラリーマンだったらそれくらいの「思い通りにいかない」経験は当たり前だろうと思ってしまうのだが、そこはそれ、あきらめの悪い作者のほぼ実体験が「小説」という体を取って表現されているのだった。

第二次脱出は有体に言ってしまうと、小説家になってから周りに表れてきた非常識な人たちの接触からどうやって身を守るか、ということなのだけど、今だったらネットで打ち合わせも原稿送付も住んでしまうから、当時の時代ならではの悩みだったのかもしれない。

この作者は一応SF作家としてデビューしてはいるが、作風はあまりSFよりではないというか、自由な発想という意味で何でも書けるSFというジャンルを利用している感じの人で、本作もSF味は一切ないのになぜかSF雑誌で連載。まあでも連載当時はこの雑誌を毎月買っていたので楽しく読んでいたのを思い出すなぁ。

第二次脱出計画 (徳間文庫)

第二次脱出計画 (徳間文庫)

 

 

素晴らしき哉、人生!(1946)

 ずっと世界を回る冒険の旅に出たいと思っていたジョージ。しかし、まっとうに生きてきた父親の家業である住宅ローンの会社を継ぐことになった。

偏屈ながらも一本筋の通った、人情に篤いジョージは、顧客第一で地道な商売を続けてきた父のやり方を踏襲し、まっとうな生き方を貫こうとする。

しかし、以前からこの会社を狙っていた悪徳資産家がたくらんだ陰謀により窮地に立たされ、自殺しようとする。

そこに二級天使クラレンスが現れ、ジョージがいない世界、へ連れて行ってくれる。

そこではジョージが大切にしている人たちが不幸になり苦しんでいる世界であった・・・

70年以上前のモノクロ映画なのだが、すごく繊細なタッチで感情の機微を描いており、人物描写に多くの時間と演出工数を割いているため、とても観やすい。

複雑なことはやっていないし、わかりやすい人物設定ではあるのだが、ジョージの実直で生真面目で、愚直に家族を愛する様子にはとても惹きつけられる。

そして悪徳資産家の悪い奴ぶりときたらもう。わかりやすすぎて笑えてくるレベルだが、これくらい思い切ってステロタイプ化した方が万人に受けるのだろうし、当時の映画ファンはきっと擦れていなくて、「悪者にも一部の理がある」的な複雑な人物設定が流行るのはもっと後世になってからだろう。

そして、ジョージの妻を演じたドナ・リードがあまりにも美しくて息を飲んでしまう。このころの女優さんの美しさは神々しすぎて平伏しそうになる。ええもん見たなぁ。

 

素晴らしき哉、人生!(字幕版)
 

 

イエスマン "YES"は人生のパスワード(2009)

 ジム・キャリー主演のヒューマンコメディ。

主人公のカールはどちらかというと後ろ向きで偏屈な男。このままでは人生一人ぼっちだと脅され、とあるセミナーに参加する。

そこでは主催者が、人生の選択肢例外なくすべてに「イエス」と言うことを強烈に推奨しており、カールは半ばやけくそのように「イエス!」を連発する。

すると、思いもよらなかったような様々な出会いが待ち受けていたのだった・・・

普通の人が人生を送る中で、すべてに対して「イエス」を言うのはまず無理だろう。「ノー」も言わないと自分の生活が保てない。

ただ、「ノー」というのは自分の何かを守るため、変化しないことを選択するためであり、相手を受け入れ、変化を喜ぶことを「イエス」として選択するという考え方もあるよね、というのが本作の趣旨であるようだ。

そのため、変化にとんだ刺激的で楽しい人生を送るなら、その他の守りたいことを全て諦める前提で、「イエス」というのもありだということなのだろう。実際、カールは「イエス」ということで出会いを獲得している反面、かなり多くの物事を壊したり失ったり諦めたりしている。

結局、セミナーの主催者自身が「そんなの程度問題でしょ、察してよ」というくらいのレベルであり、やはりカールのそれは常軌を逸しているということになるのだが、ここはハリウッド映画らしく、ドタバタそして大団円となる。

やっぱり人間は能動的になると「ノー」を言うんだなぁということをあらためて感じさせてくれた。たまには「イエス」と言ってやってもいいかな。

イエスマン "YES"は人生のパスワード (字幕版)

イエスマン "YES"は人生のパスワード (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

水滸伝(1983)

 梁山泊で民のために戦う英雄たちと、悪徳大臣との戦い。

中国の古典が原作とのことだが、読んだことはない。

この映画も放映当時はやたらとCMやりまくっていたのを覚えているが、劇場では見ていない。

正直ストーリーはグダグダで、いたずらに登場人物たちが右往左往しているようにしか見えない。

しかし、この映画の最大の特色として、「英雄たち」は実際の武術家(武術が得意な俳優たち?)で構成されており、アクションが半端なくすごい。

それぞれ得意としている拳法や武器が異なり、見所がちりばめられているのも魅力。

当時相当すごいカンフーブームだったこともあるが、それを差し引いたとしてもレベルの高い格闘技が展開されており、最初から最後まで迫力のある戦いのシーンの連続だった。

封切当時、今から考えると露骨な番宣だったが、中国武術大会と銘打ってキャストたちがトーナメント方式で戦うというテレビ番組が放映されていて、それは見た記憶がある。

突撃レポーターとして古舘伊知郎が中国から中継しており、主役のリー・リン・チェイの楽屋の前に押しかけ、「ミスターリーリンチェイ!ミスターリーリインチェイ!」と扉の外から厚かましく語りかけている様子を覚えている。

そのあと、トーナメントと言いながらも主役のリー・リン・チェイがしっかり勝つ台本通りの展開。

リー・リン・チェイは当時人気の高かった少林拳・北拳の使い手で、決勝戦で当たった相手が表裏をなす少林拳南拳というのも熱い設定だったなぁ。

あの頃のカンフー映画は細かいことを考えずに楽しめるものが多くて、今でもつい観返してしまうものが多い。

水滸伝

水滸伝

  • 発売日: 2017/06/26
  • メディア: Prime Video