観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

タローの乙女<クラスター・サーガ②> ピアズ・アンソニイ

クラスター・サーガの第二巻。おもいきりネタバレです。

前作「キルリアンの戦士」のエピローグで、フリントとアンドロメダの刺客は、体中が楽器となっていて音楽により会話をするミンタカ人に転移し、そこで子供を産んでおり、そこから千年後、再びアンドロメダからの脅威に対抗すべく、彼らの子孫であるミンタカのメロディが選ばれるくだりまで触れられていた。メロディのオーラは223。ミンタカの尺度ではもう中年に達する気性の激しい女性である。

今回は、前作から千年後、アンドロメダが宿主強制法を開発、天の川銀河の主要な政府や役所の高官に強制転移を行い、内部から崩壊させることをたくらんでいた。

それが発覚し、決定権を持つ高位の人間に知らせないように、キルリアン分析でお互いが強制転移されていないと判断した中級将校たちが、その時点において天の川中でもっともオーラが高い、ミンタカのメロディを呼び寄せたのだった。

このころは宿主も職業となっており、主要惑星には必ず多くの宿主が常駐しており、それらの権利は宿主協会が保護していた。その中でソル人の若い美女に転移したメロディは、宿主の意識と会話し、助けられながら、ソル星圏宇宙艦隊の旗艦へ向かう。この艦隊がその気になれば、一つの星圏をあっとい午に壊滅させることができるからである。

乗り込んだメロディは、その肉体的魅力を駆使しながら乗組員に接近し、タローカードによって彼らが強制転移された「人質」かどうか見極めていく・・・。

そして、自分の艦だけでなく、各星団の艦隊旗艦それぞれの上位者数人が全て乗っ取られていることが判明し、転移による捨て身の作戦を始めるのだった・・・

今回の主人公、ミンタカのメロディはタローカードを半ば専門に研究している学者でもあり、前作以上にタローの存在が重要なファクターとなっている。また、メロディ自身が結婚をしていないオールドミスであり(ただ、ミンタカ人女性は一度結婚をすると男性に性転換してしまうのだが)、宿主が無邪気で知性の高くないソル人美女という組み合わせから、「交配」に関するコンプレックスが浮き彫りになっており、この辺も前作と変わらず。

最終的には、やはり古代種が残した遺跡がキーとなっており、完全なキルリアン文化を築いたと思われる古代種のエネルギー制御法を発見すべく、敵のアンドロメダ銀河へ転移し、クライマックスを迎えるのだが、これがまた途方もない終わり方で、許されるぎりぎりの範囲か、もしくはちょっとアウトだろう。

まあでも、面白いのでよし。

 

 

キルリアンの戦士<クラスター・サーガ①> ピアズ・アンソニイ 1977

 「魔法の国ザンス」シリーズで有名なピアズ・アンソニイのSFシリーズ。全三部作の第1巻。

時は24世紀。天の川銀河ソル星圏に、中心部のナイフ星圏からオーラ転移による使者が訪れる。アンドロメダ銀河の星圏が、天の川銀河のエネルギーを全て自分たちの文明を維持するために搾取しようとしている。そのためにはこのオーラ転移技術を他の星々へ広め、各星圏で連合を結成するという・・・

オーラ転移とは、非常に多くのエネルギーを使い、コストが高すぎるため多用され得ない物質転送とは違い、キルリアンオーラと呼ばれる精神だけを、宿主と呼ばれる別の知性体に移すことをいうが、転移した瞬間から著しくオーラエネルギーが消耗し、オーラがなくなった瞬間宿主へ取り込まれてしまうため、通常よりも強いオーラが必要とされる。

そこでソル星圏で選ばれた伝令が、天の川最高のオーラ高度を持つ、さいはて星の原始人フリント。彼は通常の200倍のオーラを生まれつきもっていたのだった。フリントのオーラ転移による生還旅行が始まった・・・。

人間型奴隷を使役する昆虫型知性体が支配するカノープス星圏、衝撃種、波動種、擦音種の三つの性をもち、水中で生活する知性体のスピカ星圏、涙の滴のような体型に車輪を持つポラリス星圏、そして超文明を誇ったとされる古代種の調査のためヒアデス星団へ・・・しかし、アンドロメダからは彼を阻止するべく同等の高いオーラを持つ暗殺者が送り込まれていた・・・。

ぶっとんだ知性体オンパレードの本作だが、一貫して「知性体の共通かつ最重要の関心は交配である」という考えから、各知性体のセックスと受胎を、かなりむりやりに描写しているのがかなりすごい。

また、この世界ではタロー教と呼ばれるソル星圏から広まった宗教が一般的に広まっており、タローカードという絵の描いてある札によって、投影と呼ばれるカウンセリングや精神分析、占いまでを行っているのだが、いうまでもなくタロー=タロット。

また、敵側のアンドロメダ銀河にいる知性体の名称を「*」「/」「|」などで表記していて、「縦棒人」「斜線人」などと読ませたりする。訳者も悩んだことであろう。

最近のSFが異星人や異世界を書く場合、そのほとんどが異文化による相互理解の困難さをテーマに掲げる場合が多いが、本作では、そういう細かいことは抜きにして、とりあえず冒険させちまえ、という意図がありありで、理屈抜きでかなり楽しめる作品。

最終的なオチ、そしてエピローグから、思い切り続編への伏線を張られており、続編への期待が膨らむ。

 

コールマン 寝袋 コルネット/L5 ネイビー

 初めてソロキャンプ用に買った寝袋。下に張ってあるのは厳密には同じではないが、もう販売していないので一番近い奴を張ってある。

それまでは妻と二人でファミリーキャンプをすることが多かったため、封筒型で接続できるタイプの安い寝袋を使っていたが、このマミータイプに憧れがあり、ソロをやると決まった時に、真っ先にAMAZONでポチった。
当時は何がいいのか悪いのか全く分かっていなかったので、テントと同じコールマンにしておけば間違いないだろうと思い、まだ冬キャンプデビューするには敷居が高かったので3シーズンのみ使えて、ダウンは高いのでポリエステルでそこそこよさそうなやつ、ということで選んだのがこれ。
今だったらこの選択肢はないが、よくわからないなり買った割には、結果的にはいい買い物だった。

数千円後半くらいのリーズナブルな価格なのに、そこそこ暖かいし居住性もよい。まあ僕自身がかなりチビなので、サイズが足りなくて窮屈、ということにはならないのが救いということもある。
仕舞い寸法もだいぶ小さいので、バイクでキャンツーに行くにはもってこいである。
もちろんモンベルなどのお高いシュラフなら、これよりもっと小さい仕舞い寸法になるシュラフがいろいろあるのだが、お値段控えめというところが重要で、ソロキャンプ初心者が手を出しやすいところに絶妙な製品設定をしているコールマンさんの妙技と言えるだろう。
子供ができて家族三人になってからのファミリーキャンプでは、封筒タイプのシュラフは妻と子、僕は一人でソロ用シュラフを使うようになったので、そのままこいつが役に立っている。
体感ではおおよそ4月以降、10月くらいまではこれで十分。
晩秋から早春にかけてはもうちょっと暖かいシュラフがいるので、別途それ用を後から買ったが、こいつもまだまだ現役戦力として頼もしい奴である。

 

iPad mini 2 (Retina)32GB WIFIモデル

 下に張ったアマゾンのリンクは最新のものなので、厳密にはタイトルの製品とは別物。当時2013年ごろに買った第二世代のiPad miniで、一番安かった32GB WIFIモデルを買った。
最近、現行の無印iPadを買おうか悩んでおり、整理するためにもすでに保有しているiPad miniについて書く。

初めて買ったタブレットで、初めて使った時は衝撃だった。
こんなに薄くて画面しかない筐体なのに、中身はすっかりパソコンで、しかも動作が軽快でWindowsのような迷いやもたつきが一切がない。
当時使っていたスマホiPhone4Sか5Sだったが、それと比べても反応の速さは際立っていて感心した。
また、今はもっと鮮やかなのだろうが、当時としては画面の綺麗さがあまりにもすごくて、こんなに美しい画面を持ち運んで観ることができるという感動が強く、やたらめったら絵の綺麗な映画ばかりを入れて観ていた記憶がある。

購入当初は通勤時の暇つぶしがメインの使い方で、映画やテレビ番組の動画を入れて観たり、電子書籍を買ってそれを読んだりしつつ、一番多い使い道はテザリングでネットにつないで「小説家になろう!」の異世界ファンタジー小説を読むことだった。いいおっさんなのに我ながらなにをやっておるのか・・・
文庫本より二回りくらい大きいサイズなので、片手で本を読むのにちょうどよいサイズ。通常のiPadだと片手持ちは重さからもサイズからもちょっとためらわれるので、持ち運びしてさっと出して使うにはこの大きさがギリだったと思う。

また、あとから別のAndroidタブレットを買って改めて思ったが、iOSって本当に初心者にやさしくて使いやすい。
ネットでは使い勝手が悪い的な悪口を見かけるが、初心者にとって一番めんどくさいことは、反応が遅くて待たされたり、余計な選択肢やパラメータが多くて何をやるべきか迷ったりすること。iOSはその辺を極力減らすように工夫されていて、確かにアイコンの置き方とか内部のストレージの融通などは全然効かないのだが、決められてしまっている分迷ったり悩んだりしなくていいのが非常に大きい。

日本ではiPhoneシェアが大きいが海外ではAndroidの方が大きいとのこと。私見ではやはり値段だろう。Apple製品はとにかく高いから。でも、利用者のほとんどがスマホタブレットを深く使い込むことには興味のない一般的な層なはずで、そういった人からしてみたらiOS一択な気がする。

じゃあパソコンもMac使えや、と言われそうだが、PCはほぼほぼ趣味の世界なのと、会社で使っているのと同じ方がめんどくさくないのでWindows。まあそれはそれということで。

最近では、家庭用NASによく見る動画や家族で撮った写真などを入れておき、家のどこにいるときでも専用アプリからNASの内部を呼び出して見る、というやり方をよくしている。これは本当に便利。まあ別にiPad miniではなくても、Fire HDタブでもできることなのだが、このやり方を開拓したのがiPad miniなので敬意を表しておきたい。

ただ、持ち運ぶにはジャストフィットなサイズなのだが、上で書いたようなうちの中で動画やら画像やらを見る使い方には、ちょっと画面が小さいかも、と思うようになった。そのため、うちの中で使う専用機として無印のiPadを買おうか考え中。2020年の現行無印iPadが発売されたときはその値段のリーズナブルさが話題となったが、それでも一番ストレージが少ないWIFIモデルで4万くらいする。十分悩むに値する高額だと思う。
今手元にあるのがiPad mini、娘使用がメインのFire HDタブ、そしてほぼ無用の長物と化しているAndroidベースのSHARP SH-05G。
次買うと4枚目になってしまうわけで、さすがにちょっと多いなぁ。
SH-05Gも悩ましいタブレットなのでいずれここで取り上げたいが、処分すべきかキープすべきか。
ただ、今持っているiPad miniは、ヘタるまで使い続けるだろうな。

最新 iPad mini Wi-Fi 64GB - シルバー

最新 iPad mini Wi-Fi 64GB - シルバー

  • 発売日: 2019/03/28
  • メディア: Personal Computers
 

 

笑's・焚き火グリル A-4君

 以前、B6君の記事を書いているので、ほぼほぼ二番煎じになってしまうが、こちらも持っており、この週末も使ってきたばかりなので書く。

畳むとA4サイズのファスナー付きクリアファイルにすっぽり収まるサイズなのでA4君。
いわずとしれた焚火台兼グリルなのだが、B6君がソロ用であるのに対してこちらA4君は一回り以上大きく、ファミリー向けとも言える。
とも言える、というのは、盛大に焚火がやりたくて敢えてソロで使っている人も多いからなのだが、それは仕舞い寸法がとても薄く、持ち運びに便利だからである。
ソロで使えるくらい運びやすいのに、組み立てるとそこそこの大きさのグリルになり、その堅牢性からガンガン焚火を燃やしても大丈夫という頑丈さがよい。
我が家は家族3人だが、この大きさだと食べるものが3人分いっぺんに焼けて便利だし、大きすぎて持て余すこともないくらいのちょうどよい大きさ。
最初は炭を使って調理をして、残った炭の上にそのまま薪をくべてから火吹き棒でぷうぷう吹けば、すぐに薪に着火して焚火が楽しめる。
B6君だと通常売られている薪はちょっと長すぎて持て余すため、焚火ができるとはいえ一工夫いるのだが、A4君は通常の長さの薪でも十分そのまま使えるのが便利。
B6君とも共通しているが、横にデザインされている笑’sのドット字から漏れ出る炭や火の色がとても美しくて映えるし、組み立てたり畳んだりするたびに、よくできているなあと感心してしまう。
なお、鉄板プレートは別売りなので、セットで買った方がお得。標準付属のロストルはすぐに熱でひん曲がってしまい、そのままでも使えなくはないがセットになっているロストルの方が強固なので、買っておいて損はない。

上部の寸法は27.7cm×19.2cm。

 

グイン・サーガ(1979 栗本薫)

 日本で初めて書かれた本格ファンタジーにして日本最長の連続小説。作者の栗本薫が書いた分だけで130巻あり、彼女が膵臓がんで惜しまれつつ世を去った後も、別の作家によって書き続けられている。

新興国モンゴール軍の奇襲により陥落したパロ王国。パロの真珠と呼ばれた双子の王子レムスと王女リンダは、臣下が操作した転送機械によりルードの森へ飛ばされる。そこで出会ったのは豹の頭を持った半裸の偉丈夫だった。
彼は自らをグインと名乗るが、それ以外のことは何も覚えていなかった。三人はモンゴールの追っ手を逃れるため逃避行に出るのだった。

長い伝統を持ち、美しき都・クリスタルパレスを擁する魔道の国・パロ。聡明な皇帝と彼に仕える選帝侯により統治される強国ケイロニア。ユラニア、クム、モンゴールの三公国から成り立ち、一度は別の国に滅ぼされるも、彗星のように現れた若き野心家・イシュトヴァーンによって再興されたゴーラ。この三国、およびそれにかかわる人々の群像劇を描いたのが本シリーズである。

この世界は「中原」と呼ばれており、いくつかの国で構成された地域を指している。さらにその外側には別の国や地域が広がっていると思われるが、本作の中では伝説として語られる以外はほとんど触れられないので、中原がこの世界の全体として表現されている。この「中原」といういい方は、指輪物語の「中つ国」に通じるものがあるのかもしれない。
一応「魔道」と呼ばれる魔法的な術は存在しており、特にパロはその道に長けているとされる。瞬間移動的な術や、陰に潜み呼ばれると顕在化するなどの術は普通に魔導師が使っている。ただ、魔法攻撃や魔法合戦のような派手派手しい感じのものではない。
それよりは剣がメインで戦争が展開していく感じ。剣と魔法と言いつつ剣に重点が置かれたファンタジーである。

主人公はケイロニア王にして豹頭の男グインなのだが、グインばかりが描写されるわけではなく、グイン不在のまま別の国や人の話で20巻くらい飛ぶこともある。

グインはルードの森以前の記憶がなくなっているものの、知的・聡明で思慮深く寡黙な男である。筋肉ムキムキの巨漢でありながら、格闘センスは抜群で戦場では敵なし。傭兵としてケイロニア軍に入るが、そこで武術及び戦術の才を認められ、とんとん拍子で出世して皇帝に気に入られ、ついには皇帝の直下であるケイロニア王にまで上りつめた。
物語の中では明らかにされていないが、グインは宇宙船に乗って別の星からやってきたと思われるくだりがあり、その宇宙船が墜落したカナンの都は放射能により広域が生物の住めない状態となっており、死の都と呼ばれている。
もうちょっとで墜落した宇宙船の残骸から手がかりが得られそうなところまで来たが、まだ早いと作者が判断したのか、真相は語られなかった。
グインがパロの双子を守って旅している時に知り合った、気のいい若い青年・イシュトヴァーンは、いずれゴーラ王になるというとてつもない野望を持ち、国から国へと渡り歩く傭兵だが、アリストートスという醜くも才のある軍師に恵まれて立身出世を果たし、ついにはゴーラ王としてのし上がっていく。
男性でありながらその美しさでパロのクリスタル公として名を馳せたアルド・ナリスは、その卓越した知略で、パロ国内の政治闘争や、中原の複雑な国際情勢を乗り切っていく。
この三人を中心としつつ、他にも山ほど出てくる様々な登場人物によってストーリーが展開される。

これを初めて読んだのは高校生の頃で、学校の図書室に30巻分が置いてあったのを全部読んで、これは面白いと古本でかき集め、さらに続刊が出るたびにお小遣いで買い続けていた。
栗本薫が亡くなるまで、31巻以降130巻まで全部全部帯付きの新刊で買っていたのだが、未完のまま終わってしまったことでがっかりし、全部ブックオフに売っぱらってしまった。2千円くらいになった。
当時のブックオフにはこうしてたたき売られたグインサーガが山のように在庫化していたが、最近は逆に見なくなったなぁ。
栗本薫は新装版のあとがきで、「誰かがこの物語を書き継いでくれればよい」という趣旨の発言をしていることと、元早川書房SFマガジンの編集長にして栗本薫の夫である今岡清により「グイン・サーガが今後さまざまな形で語り継がれてもよい」としていることを受け、別の作家による正伝の継続が行われている。
まだそちらは読んだことがないのだが、いずれ巻数がまとまったら読んでみたいし、誰でもいいから完結させてほしいものである。

なお、本作はギネスに申請したものの「巻が分かれているのは一作としてカウントできない」という理由で、世界最長の物語としては認定されなかったらしい。海外では宇宙提督ペリー・ローダンシリーズが何百巻もの長さを誇っているが、あれは初めから複数の作家が交代しながら書いているからなので、単独の作家で書かれた130巻は世界最長と思われる。
長すぎるのでもう二度と読み返すことはないと思うが、心に残っている物語である。

グイン・サーガ1 豹頭の仮面

グイン・サーガ1 豹頭の仮面

 

 

銀河英雄伝説(1982 田中芳樹)

 日本SF界では知らぬ者のいない大ヒット作。

数百年先の未来、銀河中に版図を広げた人類は、ゴールデンバウム王朝による銀河帝国によって支配されていたが、それをよしとしない共和主義者たちは帝国領を脱出し、その支配の及んでいない宙域に「自由惑星同盟」(フリープラネッツ)を建国、独立を宣言した。それから150年、両者はずっと戦争を行っており、膠着状態に陥っていたが、帝国側に若き才能、ラインハルト・フォン・ローエングラムが現れてから、状況が変わりつつあった。
ラインハルトは零細貴族の出だったが、ずば抜けた艦隊戦指揮の才能を有しており、破竹の勢いで出世しつづけ、若干20歳の若さで帝国元帥の地位まで上り詰めていた。
一方、同盟軍側にも、不可能と思われたエル・ファシルからの一般人を引き連れた脱出劇で一躍「奇跡のヤン」として名を馳せた、同じく艦隊指揮の奇才、ヤン・ウェンリーが現れており、歴史は大きく動き始めた・・・

大人気作でこれまでにいっぱい分析・考察されているので、今更ここで説明するのは野暮というものであり、感想にとどめておく。

この作品、とにかく登場人物が多い。本編の小説で全10巻、外伝で5巻なのだが、山ほど人が出てくるのでどれがどの人だかわからなくなりそうになる。
それを覚えやすくしているのが名前である。特に帝国側の人たちは、
 メインキャラ:ラインハルト・フォン・ローエングラム
 その親友:ジークフリード・キルヒアイス
 その部下:ウォルフガング・ミッターマイヤー
 その部下:オスカー・フォン・ロイエンタール
などなど、あまり聞いたことのない派手めな名前のオンパレードで、それもそのはず、作者はドイツ史の人名事典的なものから名前を拾っているので、今では使われていないような時代がかった名前が多いのだそうだ。
日本でいうと源九郎義経とか大塩平八郎とかそういうたぐいだろうか。
同盟側はもうちょっと普通っぽい名前が多い。
 メインキャラ:ヤン・ウェンリー
 その被保護者:ユリアン・ミンツ
 その部下:オリビエ・ポプラン
 その部下:ワルター・フォン・シェーンコップ
 その部下:ダスティ・アッテンボロー
 部下&将来の妻:フレデリカ・グリーンヒル

やっぱりちょっと変わってるかな?
帝国側の文化はドイツが元になっていて、帝国語もおそらくドイツ語である。「撃て!」というセリフは「ファイエル!」だそうである。
同盟側は英語圏で、同じセリフは「ファイヤー!」である。
言語が違うが、同盟側では学生の時に帝国語を学ぶので、片言は喋れるという設定。
ドイツ文化が銀河の覇権を握っている未来というのはなかなか想像しがたいものがあるが、まあその方がかっこいいので仕方がない。
この世界では地球という存在がほぼほぼ忘れ去られており、それなりに知識を持っている人が「ああ、人類発祥の惑星でしょ?」くらいの認識しかもっていないのだが、地球がないがしろにされているのが許せないとして、「地球教」というカルト宗教集団が暗躍している。人類発祥なんだからもうちょっと栄えていてもいいものだが、なぜかこの世界では寂れまくっていて、地球教徒くらいしか住んでいないことになっている。それじゃあまあ確かにちょっと憤るのもわかる気がするわ。
ラインハルトが「銀河を我が手に!」という野望を中心にしてモチベーションを維持しているのに対して、ヤンの方は元々歴史の勉強がしたかったところ、親が早逝しお金の関係で士官学校に進まざるを得なくなり、戦史科に進みたかったのに戦術の才を見出されて仕方なく指揮官をやっている。艦隊指揮を執る度に功績をあげ、20代のうちに提督と呼ばれるようになるが、本人は早く引退して年金生活に入りたいと愚痴ばかり言っている。
この対照的な二人が戦場で対決すると、拮抗はするもののほぼほぼヤンが優勢(というか負けないで終わる)となるのが絶妙なところ。
全体のテーマの一つに、「名君の専制政治がよいのか、愚者による民主政治がよいのか」があり、のちに皇帝となるラインハルトの非凡な名君ぶりによって隆盛を極める銀河帝国に比べ、利権や選挙のことしか考えない政治家たちによる堕落した民主国家となっている同盟の現状があり、それを憂いながらも、それでも民主主義を選択しているヤンがいて、それぞれが悩み苦しみながらも戦っていくのが見どころの一つとなっている。
ヤンのところには手違いなのか何なのか、独身なのになぜか戦災孤児の育成義務が発生し、ユリアン・ミンツという少年が転がり込むことになる。
この少年がまたできた子で、そこそこ美少年で、スポーツが得意で、紅茶を入れるのがもっと得意で、ヤンを崇拝してやまない。
この二人の家庭での様子を読んでほっこりするというのがファンの大きな楽しみの一つだった。
もちろんこのほっこりも、ストーリーが進むにつれて大きな展開を迎えるのだが、その辺はネタバレなので割愛。
見どころである艦隊戦は、小説という文章だけの世界でよくここまで表現するなぁと感心する出来栄えで、ちゃんと読ませるのがすごい。
まあ、レンズマンの時代からこういった宇宙空間での戦闘を描いた作品は多いのだが、軍人一人一人の挙動まできちんと描いているので読みごたえがある。
ものすごい数の登場人物を執拗とも思える精緻さで描写して、この銀河をまたいだ英雄譚を紡いだ田中芳樹はさすがである。
ただ、いろいろ「?」な点も多い。一番謎なのは、帝国領と同盟領の間には、宇宙船で通れない荒れた区域があり、二つの「回廊」と呼ばれる宙域でしか通行できない、というもの。一つはイゼルローン回廊であり、ここには帝国のイゼルローン要塞が鎮座している。もう一方はフェザーン回廊であり、ここにはフェザーン自治領という、帝国にも同盟にも属さない商業独立区が存在している。
この回廊という概念がまあよくわからなくて、アニメでは回廊の外に出ると激流的な何かに巻き込まれてあっという間に宇宙船が破壊されてしまうという恐ろしさなのだが、宇宙空間で激流ってなんなんそれ?
あと、艦隊戦の描写がどうにも二次元的で、右からとか左からとかそういう説明が多い。宇宙空間だったら3Dじゃね?というのはよく言われていた。まあ話が複雑になるしわかりにくいので、イメージ的な戦争としては2Dの方がわかりやすいのかもしれないが。

1988年からアニメ化されたのだが、全110話という長大なボリューム。そりゃそうなるわなぁ。もとはOVAなのだが、のちに深夜枠でTV放送され、撮り貯めしてちょっとずつ見ていたのを思い出す。
とにかく登場人物が多いので、日本の声優総出演の様相を呈しており、ああこの人はこの役なのか、と観るのが楽しかった。
OPやEDの曲もよくて、とくにEDの小椋佳は泣ける。
つい最近も、『銀河英雄伝説 Die Neue These』としてアニメがリメイクされた。最初のアニメ化から30年たっているので、出演している声優はもちろんほぼ総とっかえなわけだが、たまに「あれ?この人前のにも違う役で出てたよな?」という声優がいてビビる。息が長いなぁ。
個人的には、初期刺激が強かった分、最初のアニメの方が好きなのだが、やっぱり今の方が絵が綺麗で、艦隊戦も見ごたえがあって素敵。まだ完結していないので、最後まで観てみたいものである。

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

  • 作者:田中 芳樹
  • 発売日: 2007/02/21
  • メディア: 文庫
 

 

 

第1話「永遠の夜の中で」

第1話「永遠の夜の中で」

  • 発売日: 2020/07/01
  • メディア: Prime Video