観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

三体III 死神永生 下(2010 劉慈欣)

三体III 死神永生 上(2010 劉慈欣) - 観たり読んだり備忘録
 を先に読んでこちらへ来てください。ネタバレ最注意!

 

地球側ではその解読に成功し、地球が生存するには3つの方法があることを知る。
「掩体計画」は、木星などの陰に宇宙ステーションを建造することで、太陽が破壊された際の衝撃を受けずに生き延びる。
「暗黒領域計画」は光の速度を低速にすることで人為的にブラックホールを作り、太陽系が安全であることを宇宙に知らしめる。
「曲率推進」は空間を折りたたみ光と同じ速さで進む宇宙船を建造し、外宇宙へ逃げる。
このうち、「曲率推進」は使用すると宇宙に明確な跡を残してしまい、暗黒森林攻撃を受けてしまうことから中止となる。
技術的に可能な「掩体計画」が実施されるが、その後実行された太陽系への暗黒森林攻撃は太陽(恒星)への攻撃ではなく、太陽系全体の二次元化であり、三次元から二次元へ強制移行させられることは生命の停止を意味する。
程心たちは地球の文化的遺産をできるだけ後世に残すため、冥王星の保管所へ行き、そこで200歳になった羅輯と会う。
そこでは1億年の歳月を経ても人類の文化を残すため、石に文字が彫られ保管されていた。
そのまま滅びに身を任せようとしていた程心と艾AAだったが、乗っていた宇宙船「星環」に曲率ドライブが搭載されていることを知り、雲天明にプレゼントされたあの星へ向かうと、そこには<万有引力>の乗組員だった関一帆がいた。

関一帆によると、すでにその世界では宇宙船<万有引力><藍色空間>の子孫たちがかろうじて住める惑星を見つけて開拓し、居住しているとのことであった。
関一帆は調査のためにこの惑星に来ていたが、関一帆がもともと居住していた世界へ向かう調査のため、艾AAをその惑星に残し、関一帆と程心が少しだけのつもりで宇宙船で飛び立ったが、艾AAが雲天明と邂逅したという知らせを受け、戻ろうとする。しかしそこでデスラインと呼ばれる低速ブラックホールに巻き込まれ、外の世界では1千万年以上が経過した。
もとの惑星に戻った程心と関一帆は、石に刻まれた艾AAの「幸せに生きた」というメッセージを発見する。そこには光るドアが遺されており、その中には一定の広さの敷地ではあるが、橋と箸がつながっていて無限に進むことができる小宇宙が内含されていた。二人はその中で農業をしてつましく生きていこうとするが、10年後、外宇宙からのメッセージが入るのだった・・・

三体及び三体IIがストーリーをメインに読ませる話だとすると、三体IIIはSFを読ませる話であり、読者がついてこれないかも、と作者本人が語っており、確かにそうだと納得する。話が非常にマニアックで、過去の名作SFへのオマージュがいっぱい詰まっていて、それでいてオリジナリティあふれるアイデアと展開がてんこ盛りになっている。もともとSFを読んでいるSF脳の人は抵抗なく受け入れられると思うが、そうでないと辛いところがかなり多い。暗黒森林攻撃をしてくる高位生命体の描写がちょっとだけ出てきたり、過去の歴史的な話をエピソードとしてはさんだりするのは、レンズマンシリーズっぽいなぁと思った。光速で移動すると主観時間と比較して客観時間があっという間に過ぎる、いわゆるウラシマ効果は多くのSFでテーマとして取り上げられており、卑近な例で言うと「トップをねらえ」だろうか(ジョー・ホールドマンの「終わりなき戦い」でもよし)。

それにしても最後の方は三体世界が出てこないな~。目の前で脱水してペラペラになるところを見られると期待していたのだが、その機会には恵まれなかった。
曲率推進ドライブは、ワープとはまた違う(あくまでも船の速度を光速に近づけるための技術)が、「空間を曲げる」あたりで宇宙戦艦ヤマトを思いウキウキしてしまった。
宇宙都市はもちろんガンダムスペースコロニーで、風化したならず者が多く生活する廃棄されたコロニーがテキサスっぽい。だが、それよりは50年近く前に子供雑誌に掲載されていた「これが未来の宇宙ステーション」に出てきたような形の方が本作ではよく取り上げられていたようだ。
また、やっぱり程心と雲天明が結ばれないのはどうかと思った。ハリー・ポッターハーマイオニーが結ばれない的な? でもそのくらいのカタルシスを読者にくれてもよかったのになぁ。
そして高次生命体との邂逅や、自分がそこまで上り詰める的な、ペリー・ローダンっぽい展開もなかった。まあそれをやると三文ヒーローものになってしまうのでやらなくてよし。
石に文字を刻んで、1800万年後に艾AAのメッセージが読めたのは胸が熱すぎる。泣けた。艾AAは現代っ子風でサバサバ割り切った行動が目に付くのだが、実は熱い女性である描写が随所に見られ、いい奴だったんだなぁと改めて好感が持てる。
最後の最後どうなったのかが判然としないまま物語が終了したが、これはこれである意味ゴールであり、ここまでのストーリーを追ってきた読者であれば各自想像できるだろうという任された感があってよい。任された!
しかしすごい話だった。IIまでは中華文化っぽい話だなぁと思っていたが、IIIで突き抜けた感がある。読んでよかった。

気になる艾AAと雲天明の話は二次創作の「三体X」で読めるらしい。公式に認められてハヤカワで出版されているので、いずれ読みたい。

 

三体III 死神永生 上(2010 劉慈欣)

三体三部作の第三部。あらすじがすべてネタバレなのでご注意を。

また、興に乗って書いていたら長すぎて「HatenaBlog」に受け入れてもらえなかった。何か技があるのかもしれないがよくわからないので、上巻と下巻に分けて投稿する。こちらは上巻。下巻は以下。本ページはあらすじしか書いてないので、感想が読みたい場合は下巻閲覧を推奨。

三体III 死神永生 下(2010 劉慈欣) - 観たり読んだり備忘録

15世紀のコンスタンティノープル
東ローマ帝国オスマン帝国に敗れようとしている中、「スルタン(オスマン帝国の長)を殺せる」と主張する女性が現れる。その暗殺は結果として失敗するが、その女性:ディオレナは、何らかの方法で次元をかいくぐる手段を見出していた。
時は移り、人類が三体に対抗する手段を試行錯誤している時代。若くして癌を発症し、余命わずかとなった雲天明は、昔たまたま友人に披露したアイデアで得た金で、国連が売り出していた「宇宙にある星の所有権」を購入し、自分が航空宇宙工学の学生時代に憧れていた女性、程心に匿名でプレゼントし、自分の判断で死を選択する制度を使おうとする。
程心は航空宇宙エンジニアであり、三体世界にスパイを送り込む「階梯計画」に携わっていた。その計画では200gだけ積み荷を運ぶことができるため、死期間近の人間の脳だけを送り込むことになり、雲天明が選ばれる。その結果を見届けるため、程心は人工冬眠(コールドスリープ)に入る。
程心は、所有していた星に地球と同じタイプの惑星があることが判明し、それを買い戻したい国連によって目覚めさせられた。その惑星が居住可能であることを発見した大学院生:艾AAと知り合い、彼女の勧めで起業する。この時代では、三体世界へは羅輯の抑止力が働き、いざとなったら全宇宙へ三体世界の座標を発信することによって三体世界を滅ぼす(代償として地球の座標も知られ、同様に滅ぼされる)、という均衡状態を保っている状態であった。
その抑止力スイッチは羅輯という「執剣者(ソードホルダー)」によって守られてきたが、羅輯も高齢となり、注目された程心が次の執剣者に選ばれるものの、その直後に三体世界からの攻撃があり、程心はスイッチを押せないまま抑止力の通信施設はすべて破壊され、地球は三体世界から征服されるのだった。
しかし、宇宙に逃亡していた宇宙船<万有引力>によってその引き金が引かれ、重力波による座標通信が行われ、三体世界は滅亡する。
程心は三体世界からの計らいにより、無事三体にたどり着いていた雲天明と話をすることができる。破壊された三体から脱出しつつある三体星人たちは、雲天明から自分たちの情報が漏れることを良しとせず、二人の会話に厳重な監視をつけたため、雲天明は当り障りのない話しかできなかったが、雲天明は三つのおとぎ話を語る体で地球のために重要な情報を伝えていた。

(その2へ続く)

 

 

三体II 黒暗森林(2008 劉慈欣)

三体三部作の二作目。盛大なネタバレに注意。

前作で地球三体組織は大きな打撃を加えられ、リーダーの葉文潔は逮捕された。葉文潔は逮捕される前、娘の同級生である羅輯に、宇宙社会学の概念と、猜疑連鎖・技術爆発というキーワードをヒントとして伝えた。
地球人類は、三体星人たちの大きな特性として、自らの思考が電磁波として発信され交信する三体人のコミュニケーションの性質上、嘘という概念を知らず、思考=話すことであることを知る。
相変わらず基礎科学を発展させることができず、技術革新を望めない地球人類は、この特性を利用し対抗するため、面壁計画を実行する。面壁人として選出された人物は、莫大な富と権限を与えられ、その代わりに自分の思考内においてのみ三体世界に対抗する考えを立案し、表向きにはそれが悟られないようカモフラージュする。人類が発する情報すべてを智子によって傍受している三体人ではあるが、思考だけは読み取れないことから、裏をかいて勝利するための方策であった。
しかし、三体側も地球三体組織のメンバーよりそれを阻止する人間、破壁人を個々の面壁人へ秘密裏に使わし、ここにその目論見を看破し阻止させようとする。
一人目の面壁人、元アメリカ国防長官テイラーは、大規模な水爆を使った攻撃を考えると見せかけて、その実は三体艦隊へ降伏し、油断したところを叩くものであったが、看破され失敗する。
二人目の面壁人・南米の元大統領ディアス、三人目の面壁人・英国科学者のハインズもまたともに失敗する。
四人目の面壁人として選ばれたのは、特に有名でもなく優秀でもない羅輯であった。彼は最初の数年を面壁者としての特権を活用し、楽園のような場所で美しい妻得て、その間に生まれた子供と過ごすが、長い瞑想の後、ある仮設にたどり着く。そして宇宙に向けてとある通信を発信した後、自分が行ったことに効果が表れるまで起こさないでほしいと言い残し、人口冬眠に入った。
観測により、三体世界から大規模な艦隊が地球に向かってやってくることが改めて事実として明らかになり、地球人類は持てる技術の粋を集め、「大峡谷時代」と呼ばれる暗黒期を乗り越え、発展していった。羅輯が人口冬眠から目覚めた時、地球は大規模な宇宙艦隊を擁立しており、誰の目にも三体艦隊を圧倒するのは自明の理と思われた・・・

この「面壁者」という、世界の命運を、4人いるとはいえ個々の個人に任せてしまうという概念が非常に面白い。大丈夫かよあんたら、とハラハラさせられる。その期待にたがわずほとんどの面壁者は失敗するのだが、ちゃんとその伏線はあとで見事に回収され、その手際が見事である。
また、大峡谷時代を経て、基礎科学がないハンデを乗り越えた地球人類たちが文明を発展させた近未来がどこか懐かしく、70年代に子供の雑誌で見た「未来世界はこんな感じ!」イラストのようなユートピアと、今どきの通信やユーザインタフェースを融合した独特の世界観となっており興味深い。
ほんのワンエピソードとして軽く消化されてしまうアイデア羅輯へ放たれたコンピュータウイルスが長い間潜伏し、この未来世界で発動して彼を殺そうとする、など)が惜しみもなく投入されており、ため息が出るほどである。

最後、大スペクタクルな展開とアッと驚くラストが待っており、人によっては「なんで三体Ⅲを出したのだ。この三体Ⅱで終わりでいいだろ」と言っている人もいるくらい完成度が高い物語の畳み方である。
久々にセンスオブワンダーを感じたSFであった。

 

 

 

 

三体(2008 劉慈欣)

中国のSF作家・劉慈欣(リウ・ツーシン)の「三体」三部作の一作目。ネタバレいっぱいするので注意。
かねがねすごいという噂は聞いていたが、ドラマ化が日本でもリリースされるという話を聞いて、これは読まねばなるまいと思ったのが昨年末。
ちょうどBLACK FRIDAYのあたりで早川書房Amazon Kindleブックの半額セールをやっていたので、思い切って三部作をすべてKindleで買ってしまった。普通に買ったら全部で1万円くらいだが、お得に買えてよかった。
それがやっと全部読み終わったので、あらすじ(ネタバレあり)と感想を書く。

時は文化大革命の時代、親を非情な吊し上げで殺された女性・葉文潔は、外宇宙の知的生命体とのコンタクトを目的とする軍の紅岸基地へ配属となる。そして人類に深い絶望をいただいた葉文潔は、この基地で発見した、太陽を使った通信技術を用い、地球文明の情報を送信した。それは地球文明を陥れる、人類への裏切りに他ならなかった。
現代の中国で、「三体」というオンラインゲームがリリースされた。そのゲームの舞台はこれまで見たことがないような奇妙な世界であった。太陽が3つあり、その世界の人類が快適に生活できる恒紀と、太陽が近づきすぎてすべてが熱せられてしまう乱紀が交互にやってくる。これらの太陽は質量が同一であり、どのタイミングで恒紀と乱紀がやってくるか、皆が予測しようと躍起になっているが、誰もそれを成し遂げることができない。この世界の人々は、乱紀になると体から水分を排出し、ペラペラの皮一枚になってしまい、その状態で次の恒紀を待つ。その間に破けたり、食べられたりしたら死んでしまうため、常にリスクを伴う。また、この世界はいつ3つの恒星に飲み込まれるかもしれない危険をはらんでおり、恒久的な対策はこの世界からの脱出であった。
この「三体」は、実際の三体世界を人類の歴史上の人物や出来事に置き換えて表現されたものであり、三体星人は実在した。彼らは葉文潔の通信により地球文明の存在とその位置を特定し、地球人を滅ぼして自分たちが地球へ移住することを決意する。
しかし、地球をはるかに凌駕する科学力を持つ三体星人でも、地球にたどり着くには約450年の歳月が必要である。その間に地球の科学力が三体世界の水準まで拮抗することを恐れた三体星人は、地球の基礎科学が発展しないよう、「智子」プロジェクトを発足する。それは陽子を11次元から二次元に展開させ、それを集積回路とすることで、「智子」(ソフォン)を作る。それを複数展開し、一方は通信用として三体世界に残し、一方は次元の狭間を越えて地球に送り込み、科学力が向上しないよう、時には実験結果に干渉し、時には主要な科学者の視神経に介入するのだった。
「三体」は、葉文潔をリーダーとする地球三体組織が、三体星人に地球を明け渡すべく地球側で同志を見つけるために開発したゲームであった・・・

最初は文化大革命の理不尽さ、残酷さがしつこく描かれる。また、当時の軍の規律の厳しさがこれでもかと描写されるので、この話は中国の軍人の話なのかなと錯覚するほどである。しかし、それだけ念入りに書かれるのは、葉文潔に人類を裏切らせるに至った経緯の必然性を醸したいからということが後から分かる。
読み進めると、太陽を使った大規模通信とか、恒星が3つ絡まりあって惑星に影響を及ぼしているのにその世界で発展する知的生命とか、エッジの効いたアイデアが次から次へと惜しげもなく提示されるのにとにかく圧倒される。それでいて、主要メンバーは中国人なので、意思決定というか人々の考え方というか、そういうものが中国人テイストの方向に向かいがちなところが新鮮に感じる。
これまで親しんできた主な海外SFは良くも悪くも欧米が主流だったので、もっとドライというか感情は抜きにした話の展開が大前提で、それがお約束であり暗黙の了解ごとだったのだが、この「三体」では人々の感情が非常に重要視されており、それによって世の中が大きく動いたり、時には目を覆いたくなるような悲惨で愚かなことがまかり通ってしまうことが世の常として描かれている。それが読んでいてとても中国っぽいなぁ、でも実際はこうかもしれないなと思わせる説得力を持っている。
それと奇抜なアイデアが絡まりあい、これまで体感したことのない壮大且つ唯一無二の世界観が目まぐるしく展開される。これは確かにすごい。
この三体世界に対して、人類はどう立ち向かうのであろうか。・・・と言いつつもう読んでしまったので、三体Ⅱおよび三体Ⅲについてもいずれ触れたい。

 

 

牙狼〈GARO〉-GOLDSTORM- 翔(2014)

封切当時、映画館に見に行ったのかレンタルで借りたのか忘れたが、すぐ見た記憶がある。年始にまたテレビでやっていたので、もう10年ぶりに懐かしく視聴。ネタバレ御免。

黄金騎士GARO牙狼>のシリーズはいくつかあるが、メインストリームの冴島綱牙ではなく、あとからできた道外流牙シリーズの方。道外流牙の最初のTVシリーズが終わり、次のTVシリーズに行く前の序章としての劇場版という位置づけ。

壮絶な戦いを経て、牙狼に黄金の輝きを再びもたらした流牙であったが、その代償として牙狼の鎧には、流牙の体調に不調をきたすほどのホラーの邪気がたまっており、その除去が必須となっていた。
彼らがいるところからほど近いタウンに、高名な魔戒法師がおり、その者であれば邪気を払ってもらえるだろうという推測の元、流牙とそれをサポートする魔戒法師・莉杏は、伝説の魔戒法師・リュメの元を訪れ、鎧の浄化を依頼し、リュメは快く了承するが、浄化には丸一日かかるという。
その間鎧が召喚できないことに一抹の不安を覚える流牙だったが、このまちはリュメが地脈からその方力を流し込むことで、ホラーが活動できない街となっており、流牙と莉杏はつかの間の休息を楽しみ、Dリンゴと名乗る怪しい還暦近そうなジジイのケバブ屋で、思いのほかおいしかったケバブを満喫するのだった。

しかし、町はずれの遺跡では、魔戒法師たちが守っていたホラーの腕が何者かに奪われた。それを追いかける流牙たちは奪っていったものが、過去の伝説の魔戒法師によって作られた阿号という人間型道具であることを知る。
阿号は流牙たちと激闘を繰り広げた後、奪ったホラーの腕と共にリュメの元へ訪れそれを撃退し、リュメを拘束した上で、毎月リュメが法力を流している地脈へホラーの邪気を流そうとしていた。
それを阻止しようとする流牙・莉杏・Dリンゴたち。戦いの火ぶたは切って落とされた・・・

最初の「冴島綱牙」シリーズが森の奥の自然の中のシリーズだとすると、この「道外流牙」のシリーズは大規模なタウンの中のうらぶれた闇が戦場なので、都会派牙狼として対称的である。
流牙の第一TVシリーズでは同格の魔戒騎士があと二人いて、かっこいい魔戒騎士が3人一気に変身するのが醍醐味だったのだが、流牙以外はどちらも中の人が問題を起こしてしまったので、今後使ってもらえることはないだろう。本当は魔戒騎士トリオでいろんなシリーズを出し事件を解決してほしかったのだが・・・ファンとしては非常に残念。
ただ、本作は、このあとのTVシリーズである、闇落ちした魔戒騎士・神牙(ジンガ)のシリーズの直前の閑話休題的ストーリーとなっており、前作の容赦ない激闘と苛烈な流牙の過去を観てきた身からすると、これくらいホッとする場面が多くてもいいよね、という気になる。
あと、阿号の活動原理がちょっと弱いので、あまり同情できないというか、「まあ、機械の戯言だあね」とみんなに言われて終わってしまう理屈だったのが少し残念。もう少し「それなら阿号がそう言うのもしょうがないよ~(泣)」くらいな泣きポイントを入れてくれてもよかったかも。あと、阿号の背中からびゃーっと出てくる巻物の長い腕みたいなやつ、あれはスパイダーマン2だか3だかに出てきた敵の武器と似ていて、ちょっと二番煎じ感があったのは残念。

まだこの時点での流牙と莉杏は若くて生意気な男女同士な感じで、お互いケンカしながらも意識し合っていててキャッキャウフフしている。もうカップルになる直前の秒読み状態に見える二人としては一番いい時期を過ごしている。これが神牙シリーズでいろいろ厳しい状況を突き付けられることになるのだが、今はまだイチャイチャを楽しんでおいてくれと思ってしまう、流牙と莉杏のためのインターミッション的なストーリーだった。
柄本明演じる伝説の魔戒法師が作った人型魔道具・阿号が朽ち果てた姿に、少女のころからお花のお供えを続けたのが角替和枝柄本明の実の妻)というのもイカス。わかってますね~。

最後のスタッフロールに出てくるいくつかの映像部分は、映画ではなくこれから始まるテレビシリーズがちょっとずつお目見えしていたんだな。そういえばそうだったな~。
こうやって劇場版の中にTVシリーズを盛り上げるネタを仕込んでおくというのはなかなか珍しい趣向だった。

garo-project.jp

プロメテウス(2012)

リドリー・スコット監督作品で、「エイリアン」の前日譚として企画された作品。
ネタバレありなので注意。

遥か昔の地球。人型でありながら人間ではない何かが黒い液体を飲み、巨大な滝つぼに身を投じながら体を霧消させ、DNAをこの地に拡散させていった。

時は流れて2089年。人類は複数の古代遺跡の中に、共通の未知の文明とその始祖と思われる惑星の存在を見出していた。
惑星調査プロジェクトに出資したウェイランド社は、人類の起源を探すために、コールドスリープを使用した長距離航行で、優秀な科学者や技術者、彼らの世話をするアンドロイドなどを乗せた宇宙船を飛ばし、10年に及ぶ航海の後、始祖の惑星にたどり着いた。
地上に降り、調査に出動したクルーたちは、人工物としか思えない巨大建造物の中に入り、そこに人為的に作られたと思われる数々の遺跡を発見する。
調査隊と別行動をとっていたアンドロイドのデヴィッドが、残された痕跡の中から映像装置を発見し起動すると、人間型の生物が走り去っていくホログラムが映し出され、その先に始祖と思われる生物「エンジニア」の死体が発見される。
エンジニアを持ち帰った調査隊がDNA解析を行ったところ、それは人類のものと全く同じであった。
一方、デヴィッドは同じ場所から持ち帰った円筒形の物体に入っていた黒い粘着質の液体を入手し、ある行動に出ようとしていた・・・

元々は「エイリアン」のエピソード0として企画されたものの、例によっていろいろな大人の思惑や脚本の改変等があり、アウトプットとしては「エッセンスはあるが直系の前日譚とは言えないですごめんなさい」的な微妙な立ち位置の作品となってしまった模様。
まあ、映画制作は大勢の人間がかかわるわけだから、こういうのは致し方ないとは思うが、切ないねぇ。
ストーリーも多くのハリウッド作品にあるように、「本当にこれが科学者の精鋭たちの集団か」と疑いたくなるくらいに皆ワガママで勝手な行動をとる。
こういう個性的な人々じゃないとストーリーが進まないのはわかるのだが、それにしても自由だなぁ。アメリカではこれが標準なのだろうか。
そして、キーパーソンとなるアンドロイド・デヴィッドの、ウェイランド社への忠実さと裏腹な倫理観のなさがすごい。こんなやつにコールドスリープ中の大事な留守番を任せていたとは、後から知ったら背筋が凍りそう。
人類の起源をたどる荘厳な調査隊の話と思いきや、後半は粘着グロホラー映画になってしまうのは、エイリアン由来だからある程度は仕方ないが、前半の重厚なつくりに期待が高まっていた分、肩透かし感が出てしまうのは否めない。
ただ、異星のスケールの大きな風景や異星人たちの重厚な遺跡群、精緻にして巨大なつくりの宇宙船など、映像は非常に美しくて見ごたえがある。ストーリーは気にせず、画面を見て楽しむのが吉であろう。

今回は吹替版で観て、主人公の声優に違和感があるなぁと気になっていたが、最後のクレジットを見てなるほど・・・そういうことでしたか。まあ、よく頑張りましたね、ということで。
また、最後に出てくるアレには、リドリー・スコットの意地を感じた。こちらも頑張りました。

 

 

ANIARA アニアーラ(2019)

アマプラのおすすめにひょこっと出てきたので、何の気なしに観始めたのだが、半分くらいを観終わる頃に「あれ?これはちょっと簡単な作品ではないぞ」と感じ出し、評価が星2個台と相当辛い点数がついていることにやっと気がついた。ひょえ~。でも頑張って観た。

原作はスウェーデンの小説家・詩人であるノーベル賞作家ハリー・マーティンソンが1956年に出版した詩。オペラ化もされ、おそらく地元では満を持しての映画化だったと思われる。
放射能汚染により住めなくなった地球から火星へ移住するべく、8000人の乗客が巨大箱舟型宇宙船アニアーラ号へ搭乗した。豪華ホテルのような至れり尽くせりの内装やサービスが充実しており、何の不自由もなく3週間で火星に到着し、夢の火星生活が始まるはずだったが、船体に衝突した小さな破片で重大な損傷を引き起こし、燃料棒を破棄せざるを得なくなってしまったことから、この宇宙船は軌道を大きく反れ、琴座方面へ漂流することになる。
地球のイメージを人の心に投影し、心の平安化・沈静化を導き出す人工知能システム「MIMA」の責任者ミーマローベは、パニックに陥りそうになる人々を救おうと積極的にMIMAを使ってもらうが、逆にMIMAが過重負荷に耐えられなくなり、自爆的に故障してしまった。
船長の独断で、最初は数年の遅れで火星に行けるとアナウンスされていたが、次第にそれが根拠のない発言であることがバレ、謎の新興宗教が広まったり、自殺者が増えたりして、船内に厭世観が広まっていく・・・

宇宙船の外観はとても壮大で美しくかっこいいのだが、それ以外の船内の様子だとか人々の振る舞いは、単に豪華なホテルに泊まっているお客、くらいの描写。
予算の関係でやむを得なかったのかもしれないが、それが逆にリアリティを増している。
こういう世代型宇宙船は、乗客それぞれが何らかのミッションを持っているイメージを持っていたが、この作品では乗客=お客さんと、それをアテンドする乗組員の立場が完全に固定されていて、この立ち位置で長い年月を過ごすのはちょっと無理だろ、という気もする。事実、後年には職種替えも行われている描写があった。
また、船長が相当ポンコツというか場当たり的で、なんでこの船長指揮下でこの船がこんなに長い間運営可能だったのか不思議。壊滅的な状況に陥らなかったことは相当ラッキーだったのでは。
SF小説ではよくあるタイプの滅亡系ストーリーなのだが、映像で改めて見せられるとエグい。人の心の嫌な部分をこれでもかと描写しており、それが原作の真骨頂なのかもしれないが、「アイタタ、もうやめて~!」と言いたくなる執拗さがある。
ラストのオチもあまりひねられておらず、もうちょっと意外性が欲しかったところだが、詩的にはこれが美しいのかもしれない。
主要な登場人物がみんなおっさんおばさんで、それが美しくないという酷評もあるようなのだが、世の中を動かしている構成比としては圧倒的におっさんおばさん世代が大きいわけで、それもまたリアルな感じがして個人的には納得だった。

楽しさや面白さを期待して観ると確かに星2つ以下が妥当なところかと思うが、純粋なSFとしての思考実験や滅びの美を鑑賞するという意味ではよくできていた。
あと、モザイクのかかっていない勃起したオ〇ン〇ンが丸ごと出てくるのだが、これってAmazon的にありなんだな。芸術だから?

 

ANIARA アニアーラ(吹替版)

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