観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

煮え煮えアジアパー伝(2002 鴨志田譲)

 鴨志田譲のアジアパー伝シリーズ第三弾。

本作のハイライトは何といってもミャンマーで出家するところだろう。
出家と言ってもだいそれたことではなく、ミャンマー人は一生の間に数か月、誰もが一度は一時的に出家するとのことで、鴨志田も3週間ほど体験出家していたのだ。
ただ、やはり出家は出家であり、かなりきつい。
朝三時半に起床し、修行の場へ。

朝四時から座禅。そこから歩く瞑想。少し休んで朝食。六時から修業が再開され、座ったり歩いたりの瞑想を1時間ずつ繰り返し、5時間後午前11時に最後の食事の時間となる。
昼のお休み後、午後1時から修業が再開され、また座ったり歩いたり、夜11時まで繰り返した後、行水をして一日が終わり。
食事を含めて娯楽が一切なく、ひたすら座って座禅、歩いて瞑想。特段体力的に厳しいことをやるわけではないし、精神的に追い詰められるわけでもないが、やはり厳しい。
鴨志田にとって一番つらかったのがタバコ。ほかは全部慣れたが、タバコがないことだけは最後まで慣れなかったようだ。アル中の鴨志田にあるまじき発言だが、実際はそんなものかもしれない。
その後、俗世に戻ってからビールをぐびぐび飲んでいると、人力車を引く、知的で聡明なおじいさんから話しかけられ、修行を振り返るところが味わい深い。

また、自国の文化を卑下し申し訳なさそうにしながら酒では決して負けない韓国人の話や、阪神淡路大震災の際、3年ぶりに帰国して神戸市役所で避難している人たちと一緒に段ボールの上で寝泊まりし、ホームレスのおっさんと友達になった話など、この人のエピソードは下の方からえぐりこんでくる系が多くて、あまり他では見たことのない入り方と出方をするので興味深い。
現地へ飛び込んで体験したり一緒に生活したりするルポやエッセイは数多く存在するが、現地の人たちの、本当は隠しておきたいくらいな生の生活感を燻り出すのがすごくうまいので、読んでいて飽きない。
もっと評価されるべき作家である。

煮え煮えアジアパー伝 (講談社文庫)

煮え煮えアジアパー伝 (講談社文庫)