レンズマンシリーズ第六弾。
といっても書かれたのは本編第一弾の「銀河パトロール隊」より前で、レンズマンシリーズの元となる前日単の中編が「三惑星連合」であり、それ以外にアリシアとエッドールの邂逅の話、そしてキニスンの血筋とマクドゥガルの血筋がどのように伝えられていったか、といういくつかの掌編からなっている。
この宇宙が誕生して数多の銀河が誕生した。その中で、のちに銀河系として知られる銀河の中で、宇宙最古と思われる生命が発展し、文明を発達させ、物質を捨て精神のみでの文明を築き上げていた。その名をアリシアという。
一方、のちにランドマーク星雲と呼ばれる銀河系の中には、同じくらい古い種族が台頭していた。彼らエッドールはこの宇宙で発生したものではなく、別の位相で発生した生命であった。
二つの種族はお互いのことを全く知らなかったが、銀河系とランドマーク星雲がその両袖を衝突させるという、天文学的にありえない偶然が生じた時、アリシア人はエッドールの精神と接触し、その脅威を感知した。
そして、アリシアの因子から始まる若い文明たちがその脅威にさらされることを予見し、後世に最高潮となるべくして二つの血統が用意され、片方は男系であり、キニスンまたはその同義語で呼ばれた。もう片方は様々な名前や男系・女系であったが、赤銅色の髪の色は引き継がれていた。
そして、アリシアはのちに銀河パトロール隊と呼ばれることになる文明の守護者へ渡すべく、レンズを創造したのであった。
アリシアが用意した血統は、古代ローマ時代、暴君ネロに反乱を起こす奴隷として、またある時は第一次世界大戦の技術者として、様々な苦難を乗り越えて生存・継続していった・・・
本作はそれらでキニスンないしはマクドゥガルの血統が、アリシア人にひそかに支えられながら続いていくのをいくつかの短編で表現している。
ただ、いかんせんレンズマンも宇宙船も出てこない過去の歴史の話なので、地味さが半端なく、レンズマンシリーズが好きでなければ到底我慢できないのだが、これを読む人は例外なく銀河パトロール隊でハマった人たちなので皆一所懸命読むのである。
そしてそれが昇華されるのが「三惑星連合」(旧作名は「三惑星連合軍」)。
この中編はまだ銀河パトロール隊やレンズマンが出てくる前、さらにはファーストレンズマンのさらに前に当たる時代で、まだ人類は銀河に進出しておらず、太陽系の中で火星人や金星人とようやく連携し始めたころである。のちにサムスのあとにレンズマンとなる、コンウェー・コスティガンと、その妻となるクリオ、彼らが乗っていた宇宙船の船長ブラッドレーの三人組が、グレー・ロジャーと名乗る悪者や、まだ地球人類との邂逅を果たしていないネヴィア人たちと果敢に戦う様子が描かれている。
レンズは出てこないが、のちのキニスンの活躍に通じる冒険活劇が繰り広げられている。こちらの作品の方が先に世に出て、そののちに銀河パトロール隊が上梓されるので、当たり前と言えば当たり前なのだが。
小学5年の頃、本の虫だった僕は、クリスティ「アクロイド殺し」のせいでミステリが読めなくなっていたため、代わりに読めるものを探していたが、そこで出会ったのが「世界SF全集」的なジュブナイル向けの本で、その中にこの「三惑星連合軍」があった(タイトルは「銀河系防衛軍」とかそんな感じの身もフタもない意訳であったが)。
そのコスティガンの活躍がすごく面白かったのを心にとめていたが、中学1年くらいの頃に上映された「SF新世紀レンズマン」というアニメ映画が、実は同じシリーズの流れを汲んでいると知って、少ない小遣いをはたいて映画を見に行った。
そこでは全く関係ないと思われるストーリーが展開されていて、心の中には「?」がうずまいてしまったため、これはジュブナイルではない正編を読まなければと思い、少なくなってしまった財布を更にすっからかんにして、大人向けの創元推理文庫・レンズマンシリーズ全7巻を購入し、すっかりはまってしまったのであった。
なので、この「三惑星連合」は自分がレンズマンシリーズに夢中になるきっかけとなった作品であり、SFという底なし沼へはまってしまった記念すべき作品でもある。