銀河英雄伝説(1982 田中芳樹)

 日本SF界では知らぬ者のいない大ヒット作。

数百年先の未来、銀河中に版図を広げた人類は、ゴールデンバウム王朝による銀河帝国によって支配されていたが、それをよしとしない共和主義者たちは帝国領を脱出し、その支配の及んでいない宙域に「自由惑星同盟」(フリープラネッツ)を建国、独立を宣言した。それから150年、両者はずっと戦争を行っており、膠着状態に陥っていたが、帝国側に若き才能、ラインハルト・フォン・ローエングラムが現れてから、状況が変わりつつあった。
ラインハルトは零細貴族の出だったが、ずば抜けた艦隊戦指揮の才能を有しており、破竹の勢いで出世しつづけ、若干20歳の若さで帝国元帥の地位まで上り詰めていた。
一方、同盟軍側にも、不可能と思われたエル・ファシルからの一般人を引き連れた脱出劇で一躍「奇跡のヤン」として名を馳せた、同じく艦隊指揮の奇才、ヤン・ウェンリーが現れており、歴史は大きく動き始めた・・・

大人気作でこれまでにいっぱい分析・考察されているので、今更ここで説明するのは野暮というものであり、感想にとどめておく。

この作品、とにかく登場人物が多い。本編の小説で全10巻、外伝で5巻なのだが、山ほど人が出てくるのでどれがどの人だかわからなくなりそうになる。
それを覚えやすくしているのが名前である。特に帝国側の人たちは、
 メインキャラ:ラインハルト・フォン・ローエングラム
 その親友:ジークフリード・キルヒアイス
 その部下:ウォルフガング・ミッターマイヤー
 その部下:オスカー・フォン・ロイエンタール
などなど、あまり聞いたことのない派手めな名前のオンパレードで、それもそのはず、作者はドイツ史の人名事典的なものから名前を拾っているので、今では使われていないような時代がかった名前が多いのだそうだ。
日本でいうと源九郎義経とか大塩平八郎とかそういうたぐいだろうか。
同盟側はもうちょっと普通っぽい名前が多い。
 メインキャラ:ヤン・ウェンリー
 その被保護者:ユリアン・ミンツ
 その部下:オリビエ・ポプラン
 その部下:ワルター・フォン・シェーンコップ
 その部下:ダスティ・アッテンボロー
 部下&将来の妻:フレデリカ・グリーンヒル

やっぱりちょっと変わってるかな?
帝国側の文化はドイツが元になっていて、帝国語もおそらくドイツ語である。「撃て!」というセリフは「ファイエル!」だそうである。
同盟側は英語圏で、同じセリフは「ファイヤー!」である。
言語が違うが、同盟側では学生の時に帝国語を学ぶので、片言は喋れるという設定。
ドイツ文化が銀河の覇権を握っている未来というのはなかなか想像しがたいものがあるが、まあその方がかっこいいので仕方がない。
この世界では地球という存在がほぼほぼ忘れ去られており、それなりに知識を持っている人が「ああ、人類発祥の惑星でしょ?」くらいの認識しかもっていないのだが、地球がないがしろにされているのが許せないとして、「地球教」というカルト宗教集団が暗躍している。人類発祥なんだからもうちょっと栄えていてもいいものだが、なぜかこの世界では寂れまくっていて、地球教徒くらいしか住んでいないことになっている。それじゃあまあ確かにちょっと憤るのもわかる気がするわ。
ラインハルトが「銀河を我が手に!」という野望を中心にしてモチベーションを維持しているのに対して、ヤンの方は元々歴史の勉強がしたかったところ、親が早逝しお金の関係で士官学校に進まざるを得なくなり、戦史科に進みたかったのに戦術の才を見出されて仕方なく指揮官をやっている。艦隊指揮を執る度に功績をあげ、20代のうちに提督と呼ばれるようになるが、本人は早く引退して年金生活に入りたいと愚痴ばかり言っている。
この対照的な二人が戦場で対決すると、拮抗はするもののほぼほぼヤンが優勢(というか負けないで終わる)となるのが絶妙なところ。
全体のテーマの一つに、「名君の専制政治がよいのか、愚者による民主政治がよいのか」があり、のちに皇帝となるラインハルトの非凡な名君ぶりによって隆盛を極める銀河帝国に比べ、利権や選挙のことしか考えない政治家たちによる堕落した民主国家となっている同盟の現状があり、それを憂いながらも、それでも民主主義を選択しているヤンがいて、それぞれが悩み苦しみながらも戦っていくのが見どころの一つとなっている。
ヤンのところには手違いなのか何なのか、独身なのになぜか戦災孤児の育成義務が発生し、ユリアン・ミンツという少年が転がり込むことになる。
この少年がまたできた子で、そこそこ美少年で、スポーツが得意で、紅茶を入れるのがもっと得意で、ヤンを崇拝してやまない。
この二人の家庭での様子を読んでほっこりするというのがファンの大きな楽しみの一つだった。
もちろんこのほっこりも、ストーリーが進むにつれて大きな展開を迎えるのだが、その辺はネタバレなので割愛。
見どころである艦隊戦は、小説という文章だけの世界でよくここまで表現するなぁと感心する出来栄えで、ちゃんと読ませるのがすごい。
まあ、レンズマンの時代からこういった宇宙空間での戦闘を描いた作品は多いのだが、軍人一人一人の挙動まできちんと描いているので読みごたえがある。
ものすごい数の登場人物を執拗とも思える精緻さで描写して、この銀河をまたいだ英雄譚を紡いだ田中芳樹はさすがである。
ただ、いろいろ「?」な点も多い。一番謎なのは、帝国領と同盟領の間には、宇宙船で通れない荒れた区域があり、二つの「回廊」と呼ばれる宙域でしか通行できない、というもの。一つはイゼルローン回廊であり、ここには帝国のイゼルローン要塞が鎮座している。もう一方はフェザーン回廊であり、ここにはフェザーン自治領という、帝国にも同盟にも属さない商業独立区が存在している。
この回廊という概念がまあよくわからなくて、アニメでは回廊の外に出ると激流的な何かに巻き込まれてあっという間に宇宙船が破壊されてしまうという恐ろしさなのだが、宇宙空間で激流ってなんなんそれ?
あと、艦隊戦の描写がどうにも二次元的で、右からとか左からとかそういう説明が多い。宇宙空間だったら3Dじゃね?というのはよく言われていた。まあ話が複雑になるしわかりにくいので、イメージ的な戦争としては2Dの方がわかりやすいのかもしれないが。

1988年からアニメ化されたのだが、全110話という長大なボリューム。そりゃそうなるわなぁ。もとはOVAなのだが、のちに深夜枠でTV放送され、撮り貯めしてちょっとずつ見ていたのを思い出す。
とにかく登場人物が多いので、日本の声優総出演の様相を呈しており、ああこの人はこの役なのか、と観るのが楽しかった。
OPやEDの曲もよくて、とくにEDの小椋佳は泣ける。
つい最近も、『銀河英雄伝説 Die Neue These』としてアニメがリメイクされた。最初のアニメ化から30年たっているので、出演している声優はもちろんほぼ総とっかえなわけだが、たまに「あれ?この人前のにも違う役で出てたよな?」という声優がいてビビる。息が長いなぁ。
個人的には、初期刺激が強かった分、最初のアニメの方が好きなのだが、やっぱり今の方が絵が綺麗で、艦隊戦も見ごたえがあって素敵。まだ完結していないので、最後まで観てみたいものである。

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

  • 作者:田中 芳樹
  • 発売日: 2007/02/21
  • メディア: 文庫
 

 

 

第1話「永遠の夜の中で」

第1話「永遠の夜の中で」

  • 発売日: 2020/07/01
  • メディア: Prime Video