観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

グイン・サーガ(1979 栗本薫)

 日本で初めて書かれた本格ファンタジーにして日本最長の連続小説。作者の栗本薫が書いた分だけで130巻あり、彼女が膵臓がんで惜しまれつつ世を去った後も、別の作家によって書き続けられている。

新興国モンゴール軍の奇襲により陥落したパロ王国。パロの真珠と呼ばれた双子の王子レムスと王女リンダは、臣下が操作した転送機械によりルードの森へ飛ばされる。そこで出会ったのは豹の頭を持った半裸の偉丈夫だった。
彼は自らをグインと名乗るが、それ以外のことは何も覚えていなかった。三人はモンゴールの追っ手を逃れるため逃避行に出るのだった。

長い伝統を持ち、美しき都・クリスタルパレスを擁する魔道の国・パロ。聡明な皇帝と彼に仕える選帝侯により統治される強国ケイロニア。ユラニア、クム、モンゴールの三公国から成り立ち、一度は別の国に滅ぼされるも、彗星のように現れた若き野心家・イシュトヴァーンによって再興されたゴーラ。この三国、およびそれにかかわる人々の群像劇を描いたのが本シリーズである。

この世界は「中原」と呼ばれており、いくつかの国で構成された地域を指している。さらにその外側には別の国や地域が広がっていると思われるが、本作の中では伝説として語られる以外はほとんど触れられないので、中原がこの世界の全体として表現されている。この「中原」といういい方は、指輪物語の「中つ国」に通じるものがあるのかもしれない。
一応「魔道」と呼ばれる魔法的な術は存在しており、特にパロはその道に長けているとされる。瞬間移動的な術や、陰に潜み呼ばれると顕在化するなどの術は普通に魔導師が使っている。ただ、魔法攻撃や魔法合戦のような派手派手しい感じのものではない。
それよりは剣がメインで戦争が展開していく感じ。剣と魔法と言いつつ剣に重点が置かれたファンタジーである。

主人公はケイロニア王にして豹頭の男グインなのだが、グインばかりが描写されるわけではなく、グイン不在のまま別の国や人の話で20巻くらい飛ぶこともある。

グインはルードの森以前の記憶がなくなっているものの、知的・聡明で思慮深く寡黙な男である。筋肉ムキムキの巨漢でありながら、格闘センスは抜群で戦場では敵なし。傭兵としてケイロニア軍に入るが、そこで武術及び戦術の才を認められ、とんとん拍子で出世して皇帝に気に入られ、ついには皇帝の直下であるケイロニア王にまで上りつめた。
物語の中では明らかにされていないが、グインは宇宙船に乗って別の星からやってきたと思われるくだりがあり、その宇宙船が墜落したカナンの都は放射能により広域が生物の住めない状態となっており、死の都と呼ばれている。
もうちょっとで墜落した宇宙船の残骸から手がかりが得られそうなところまで来たが、まだ早いと作者が判断したのか、真相は語られなかった。
グインがパロの双子を守って旅している時に知り合った、気のいい若い青年・イシュトヴァーンは、いずれゴーラ王になるというとてつもない野望を持ち、国から国へと渡り歩く傭兵だが、アリストートスという醜くも才のある軍師に恵まれて立身出世を果たし、ついにはゴーラ王としてのし上がっていく。
男性でありながらその美しさでパロのクリスタル公として名を馳せたアルド・ナリスは、その卓越した知略で、パロ国内の政治闘争や、中原の複雑な国際情勢を乗り切っていく。
この三人を中心としつつ、他にも山ほど出てくる様々な登場人物によってストーリーが展開される。

これを初めて読んだのは高校生の頃で、学校の図書室に30巻分が置いてあったのを全部読んで、これは面白いと古本でかき集め、さらに続刊が出るたびにお小遣いで買い続けていた。
栗本薫が亡くなるまで、31巻以降130巻まで全部全部帯付きの新刊で買っていたのだが、未完のまま終わってしまったことでがっかりし、全部ブックオフに売っぱらってしまった。2千円くらいになった。
当時のブックオフにはこうしてたたき売られたグインサーガが山のように在庫化していたが、最近は逆に見なくなったなぁ。
栗本薫は新装版のあとがきで、「誰かがこの物語を書き継いでくれればよい」という趣旨の発言をしていることと、元早川書房SFマガジンの編集長にして栗本薫の夫である今岡清により「グイン・サーガが今後さまざまな形で語り継がれてもよい」としていることを受け、別の作家による正伝の継続が行われている。
まだそちらは読んだことがないのだが、いずれ巻数がまとまったら読んでみたいし、誰でもいいから完結させてほしいものである。

なお、本作はギネスに申請したものの「巻が分かれているのは一作としてカウントできない」という理由で、世界最長の物語としては認定されなかったらしい。海外では宇宙提督ペリー・ローダンシリーズが何百巻もの長さを誇っているが、あれは初めから複数の作家が交代しながら書いているからなので、単独の作家で書かれた130巻は世界最長と思われる。
長すぎるのでもう二度と読み返すことはないと思うが、心に残っている物語である。

グイン・サーガ1 豹頭の仮面

グイン・サーガ1 豹頭の仮面