物忘れが激しくなったり、頑固になったりするのは老化によるデメリットというのが通常の感覚だが、それを「物忘れが激しくなることによってイヤなことを忘れ、前向きになれる」「頑固というのは意志が強固になったということ」というプラス方向に変化しているのであり、それを「老人力がついた」と表現するという、パラダイム変換の典型のような考え方。
この発想を考案し、世に出したのが、路上観察学や超芸術トマソンで有名な赤瀬川源平。彼は主にこれらのエッセイを雑誌「ちくま」に連載していて、それをまとめた筑摩書房の「老人力」「老人力②」をまとめたのがこの文庫版ということになる。
この筑摩書房版が発行されたあと、しばらくこの老人力ブームになり、赤瀬川源平もいろいろなところで講演を行ったりしたらしいのだが、やはりそこにくるのは老人ばかりで、みな救いを求めるように彼の話を聞いていたというあたりが、当たり前のことではあると思うがちょっとおかしい。
この本を初めて読んだのは30歳をちょっとすぎたくらい。当時でさえ、ああわかるわかる物忘れ激しくなったもんなぁと思いながら読んでいたのだが、現在はもうそんなの当たり前すぎてトピックにすら思わないという年代である。そう考えると順調に老人力はアップしており、我ながら頼もしい限りである。
というより、現代の世の中の老人たちは元気がありすぎて、老人力を爆発させているようにも見える。昔はこの概念に老化に対抗するための救いを求めていたのが、今では老人に力があることは当たり前になり、誰も不思議に思わなくなっているというのも不思議な話である。
もちろん、自分がもっと老人になった暁にはもっと元気になって、若者から疎まれる程になりたいと思う。迷惑はかけたくないが。