観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

プロジェクト・ヘイル・メアリー(2021 アンディ・ウィアー)

「火星の人」のアンディ・ウィアーのSF小説三作目。がっつりネタバレしているので未読の方はご注意を。

主人公は宇宙船の中で目覚める。しかし自分が何者なのか、どうして宇宙船の中にいるのか、記憶がない。
傍らには二体の死体があり、死亡してから何年か経過しているように見える。
船内を探索していくうちに、彼=グレースは徐々に記憶を取り戻し始める。

地球に届く太陽の光量が減少し始めた。調査の結果、「アストロファージ」という呼称のついた10ミクロンの物体がエネルギーを食べていることが判明。このままエネルギーの減少が続けば、数十年で地球は氷河期となり、人類は滅亡の危機に陥る。
以前、「水を含まない生命体」についての論文を書き、評価が得られず学校教師をしていた元科学者:ライランド・グレース。アストロファージが何なのか、突き止めるよう依頼された彼は、アストロファージが地球外生命体であることを突き止める。
アストロファージは太陽以外の恒星でも猛威を振るっていたが、地球からほど近いタウ・セチだけがその影響を逃れ、光量が変化していなかった。ここに行けば、アストロファージを制する手がかりを得ることができるかもしれない。
そこで国家を超えた計画、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」が発動される。これは宇宙船をタウ・セチに送り出し、なぜここだけアストロファージの繁殖が抑えられているのか突き止め、情報を保存した無人機を地球に送り返す(人間が戻る手段はなく、搭乗者は死ぬ運命にある)という壮大且つ悲壮なプロジェクトであった。グレースも駆り出され、本人が望まないにもかかわらず、控えの搭乗者候補として選ばれたのち、不慮の事故によりメイン搭乗者たちが死亡したことで繰り上げとなって、宇宙船に搭乗させられる。

記憶をすべて取り戻したグレースは自分がタウ・セチに到着したことを知る。そしてそこで、自分と同様にタウ・セチへ調査に来ている異星人の宇宙船を発見する。
その船には一体の異星人:エリダニ40星系から来たエリディアンだけが生き残っていた。その異星人にロッキーと名付けたグレースは、ロッキーと協力しながら、アストロファージのなぞを解明していく・・・

まず「アストロファージ」というアイデアが本当に良い。よくこんなの思いつくなぁ。
こいつの存在ですべてのストーリーが浮かび上がるのが秀逸で素晴らしい。
もちろん話の中ではこいつは害悪であり駆逐対象なのだが、これがピロピロと宇宙空間を動き回っている様子を想像すると、ちょっとかわいく思えてしまう。
宇宙船の構造はよくあるロケット型なのだが、人口重力を発生するための作りが面白い。上巻の最初にイメージ図があり、それを見る限りだとかなり造りが危ういというか、すぐ壊れそうな構造に見えるのだが、案外と頑丈でこの構造は作中でフル活用されていく。
そしてロッキーがかわいすぎる!こいつがけなげで真面目で堅物で、でもラブリーでキュート。
明るく陽気で、時々落ち込むことはあるけれど不屈の闘志でやるべきことをやりとげる、という主人公像はアンディ・ウィアー作品では一貫していて、信頼して読み進めていけるのだが、グレースだけでも十分にやっていけると思わせてからの、もう一人の魅力的な登場人物としてロッキーが登場するのが心憎い。
エリディアンは人類とはかけ離れた生き物で、正五角形の体から5本の脚が出ている蜘蛛みたいな容姿なのだが、やはりアストロファージの謎を解明するために本星から送り出され、同僚たちが原因不明の病でバタバタと死亡してたった一人になっても自分の任務を遂行しようとしていたけなげなヤツなのだ。
そしてコミュニケーションが成立してからは、素直に自分の感情を表現しつつ、ひたすら脆弱な人類たるグレースを慮る様子に萌える。
そんなロッキーとのファーストコンタクトだけでもワクワクするのに、コミュニケーションが取れてから協力してアストロファージの調査を行うのだから、無敵感が半端ない。
エリディアンの科学の進み具合が微妙に地球人類と比べてまさっているところ・劣っているところが設定されているのが、その共同作業を面白くしている要因。この辺本当にうまいと思う。
アストロファージ対策のオチ(?)は、正直ちょっと「え?そんなもんなの?」という感じだった。もうちょっとここにドラマがあってもよかったんじゃないかと思うが、この設定がそのあとのストーリーの主軸なので、ここは譲れないのであろう。
また、ラストは正直もうちょっといろいろはっきりしてほしかったなぁ。余韻含みの想像させるラストで、それはそれでよかったけど。

本作は『SFが読みたい!』2022年の海外SFランキングで堂々の1位を獲得している。そうだろうそうだろう。
いい話を読ませてもらった。映画も制作進行中で、2026年公開予定とのこと。楽しみが一つ増えた。