劉慈欣のSF三部作「三体」の熱狂的なファンだった宝樹が、二次創作としてネットに発表した小説。のちに劉慈欣の公認を経て、公式二次創作として出版された。ネタバレあり。
不治の病に侵され、脳だけの状態で三体世界へ送り出された雲天明。三体世界では取り調べのための過酷な精神的・神経的拷問を耐え抜き、のちに体を与えられ、ずっと憧れていた程心に会うために、遠い昔に彼女へプレゼントした星の惑星へやってきた。
しかし不運なことに、彼女は突発的に発生した死の線(デスライン)に巻き込まれ、二度と出会えない時空へ行ってしまったのだった。
ここにいるのは雲天明と、程心の助手であり友人である若い女性、艾AAのみであった。彼らはこの惑星で二人きりとなり、必然的にパートナーとして生きることになった。
この辺までがブックレビュー的なところに書かれているあらすじなのだが、まず読者が全員思うのは、「なんで程心とくっつかないんだよ!」ということだろう。
本編ではすれ違ったままそれぞれが別の生を生きるところで終わっていた。ファン創作だったら、その辺をフォローしてくれてもいいだろうと半ば勝手に期待して本書を開いたのだが、そんな願望充足型の話ではなかった。それがまたよいのだが。
しかし艾AAめんどくさい。テンプレ通り「私と程心とどっちがいい?」的なことを聞くんだなぁ。
しかし、ここではそれ以上に衝撃的な事実が発覚する。三体の使者として地球に送り込まれた智子のモデルが日本のAV女優の朝〇蘭であるという。
あまり詳しくないので詳細はわからないが、確かに名前は聞いたことはあるがそんなにメジャーな女優じゃなかったような。
でも、中国では日本のAVはものすごい人気で、かの地ではスーパースター扱いらしいので、この女優も中国ではカリスマでありレジェンドだったのかもしれない。そのファン創作っぽいチョイスが絶妙で笑ってしまう。
読む前は、この惑星で二人っきりで生涯を送る話なんだなぁと漠然と想像していたのだが、それは物語の前哨戦に過ぎず、雲天明はこのあと全宇宙を揺るがす騒動へと巻き込まれ、重要な役割を担うことになる。
「三体」の屋台骨を借りているとはいえ、元の作品ではあまり触れられることのなかった黒暗森林の攻撃者側の話や、さらにその上位層である宇宙の創造者にまで踏み込んでいくのがスカッとして気持ちがいい。
元の作品で「ここもうちょっと詳しく知りたい」とだれもが思うところへ明確に切り込んでいって、それでいて描写は緻密に行われており、公認されるのもうなずける。
最後のオチはまあありがちと言えばありがちだが、二次創作ならやってみたい定番オチかもね。
ファンがここまで書けるなんてすごいなぁ。とはいえ宝樹はれっきとしたSF作家であり、ただのファンではないからこそ、この完成度なのだろう。
三体世界の奥行が本作で広がったのは間違いない。いい作品だった。
