2022年にKADOKAWAから出版された劉慈欣の短編集。ネタバレ注意。
流浪地球-太陽が近年中に赤色巨星となり地球軌道を飲み込むことが判明、地球地表に核融合エンジンを取り付け、地球ごと移動して新天地を目指す。
表題作であり、本短編集の中で一番派手な話。映画化されており、NetFlixで観られるらしいが、未契約なので観られず。いずれ観たい。
ただ、「どっかで見たことのある話だな」という感もあり、日本の特撮映画「妖星ゴラス」との近似性が指摘されているとのこと。
「妖星ゴラス」自体は見たことがないのだが、90年代のSFカルチャーではよく取り上げられるネタだったので、地表にでっかいロケットがいっぱいついていてゴーっと噴射している絵はよく見ていた。まあ、何らかインスパイアされているだろう。
ただ、こちらの方がスケールが全然大きい。妖星ゴラスは星との衝突を回避するために地球の軌道を少しずらすだけだが、流転地球は太陽系を脱出するという途方もない話。
ただ地球を動かすだけではなく、地球内のコミュニティの変化や自然環境がどう見えるか、という細部もよく練り込まれていて飽きさせない。
ミクロ紀元-ウラシマ効果で1万年以上、宇宙を探索して地球に戻ると、全ての生命のサイズが小さくなっていた。
カロリーや空気・水などが絶対値だとすると、それを消費する側が小さくなれば省エネになる、という発想。確かにその通りなのだが、犬や猫くらいの生き物にパンと叩かれただけで都市が滅亡しそうで怖い。まあ、この時代にはそんな生き物たちも漏れなく小さくなっているのだが。
地球にも恐竜はいたし巨人族の伝説もあるし、人間の大きさは絶対的なスケールではないと改めて思わされる。
呑食者-宇宙の資源を次々に飲み込んでいく侵略者・呑食帝国と地球人の戦い。
呑食帝国の話は「円」でも読んだのでなじみ深いが、そちらではすでに侵略された後の話であったのに対し、こちらでは地球人たちが真っ向から立ち向かっている。
「三体」に出てくる地球以外の生命体の文明度からすると、呑食帝国と地球の文明度合いは拮抗していて、いい勝負になっているなあという印象。
呪い5.0-プログラム化された呪いがアップデートされながらネットの世界に拡散・潜伏する。
これは「三体」でもひとつのエピソードとして使用されていたが、こちらが元ネタと思われる。
ハードウェアが全自動化された未来では、それらを動かすソフトウェアを意のままに使うことができれば人に危害を加えることもできる。将来、特定の人物を見つけたら自動発動してその人物を害するようプログラムされたウイルスの話。怖いこと考えるなぁと思ったが、ストーリー自体はドタバタでユーモラス。
狂言回しとして劉慈欣(作者本人)と藩大角(実在するSF作家がモデルとのこと)がかき回すのが楽しい。
中国太陽-宇宙空間に巨大な反射鏡を置き、太陽光を反射する中国専用太陽をメンテナンスする人たち。
中国太陽という発想自体がすごいのに、ストーリーの主体はそれをメンテナンスする肉体労働者たちであり、彼らが職人として責務を全うする様がとてもかっこいい。
反射鏡から地球の地表を見て、自分の故郷があの辺だと思いを馳せるあたりが素敵。
山-海上に飛来したUFOの引力で海面が持ち上げられた山に登頂する冒険者。
これだけちょっとピンとこなかった。確かに海面が重力で持ち上がれば、地球上にない規模の山が出現して、冒険家だったら登らないわけにはいかないよね、となるのはわからなくはないが、一歩一歩登る感がない。達成感は感じられるのかな。
まあでもスケールはものすごく大きい。
いずれもアイデアを惜しみなくふんだんに使う豪華さが劉慈欣の魅力で、本作でもたっぷり楽しめた。
