銀河に人類が数多進出している世界。
共和国ルスエル・ステーションでは、帝国テイクスカラアンへ、若い女性の大使:マヒート・ドズマーレを派遣しようとしていた。
以前の大使・イスカンダーが死んだとの報告があったためである。
ルスエルでは人の記憶を「イマゴマシン」という小さなチップに保存し、頭蓋骨に埋め込むことで人の記憶を引き継ぎ、保存した人間の疑似人格と脳内で会話し知識を得ることができる。
イスカンダーは大使着任後、15年前に一度帰ってきた折に記憶を保存していたが、以降の更新はなかったため、マヒートの頭蓋骨に埋め込まれたイマゴマシンには、古いイスカンダーの記憶だけが入っていた。本来は十分な順応期間を取ってイマゴマシンに慣れていくが、その時間もないままテイクスカラアンへ出立する。
道中、年上の男性であるイスカンダーのイマゴと会話して情報を得ようとするが、イマゴに保存されたイスカンダーは着任して数年しかたっておらず、心もとない情報しか得られない。
テイクスカラアンでは、大使をサポートするための職員であるスリー・シーグラスがついてくれ、独特な文化を持つテイクスカラアンとその宮廷での立ち居振る舞いについて助言してくれる。
イスカンダーの遺体を検分したマヒートは、イスカンダーが自然死ではなく何者かに殺されたことを知る。また、自身の遺体を見てショックを受けたイスカンダーが脳内で出てこなくなり、マヒートは自分のイマゴマシンが機能しなくなったことを悟るのだった。
スリー・シーグラスの助けを大いに得つつ、テイクスカラアンの独自の文化を理解し、何かトラブルに巻き込まれたであろうイスカンダーの死の謎を解こうと奮闘するうち、マヒート自身も政争に巻き込まれていくのだった・・・
最初のマヒートがとにかく心もとなくて不憫。本当であれば万全の記憶を持ったイマゴマシン、その内部の人格と融和するための十分なセラピーや期間などが用意されてしかるべきなのに、いずれも足りない状態で任地に赴かなければならない。
そしてテイクスカラアンは、名前の最初に必ず数字をつける、直接的な情報伝達は風流ではなく、詩をしたためその中に情報をちりばめて伝達するなど、異様とも言える独自の文化を持っており、それでいながら宇宙に覇を唱える大帝国なので、逆らったり否定したりすることは思いもよらない。
座学で勉強したことがあまり役に立たず、目を白黒させながらなじむのも一苦労なのに、どんどんトラブルに巻き込まれていって、物理的なダメージもバンバンくらっているのが可哀想で、しかも最初かなり尺を取ってしっかり描写されるのでストーリーがあまり進まず、読んでいて少しモヤモヤする。
しかし、マヒートは不屈の闘志で立ち向かい、大使としての使命を全うしようと尽力する。
なんでそこまで?という理由付けがちょっと薄い気もするのだが、若さゆえの一本気な無謀さもあって、非常に大胆でおっかない選択をしまくっていく。
そこはもっと考えて慎重に判断してくれよ、というシーンが随所にあるが、いずれも時間や猶予が全くない状況でマヒートが決断していく様が最初おっかなくて、後半爽快になっていく。
最初は野蛮人の生態に興味があって対応していたスリー・シーグラスと徐々に打ち解けて、最終的には心を許せる友人となっていく過程は見ていてホッコリする。
そして徐々に明らかになっていくテイクスカラアンの貴族や皇帝たちの行動や考えがまた独特で、理解する間もなく行動して判断していかなければならない、というシチュエーションを作るのが巧みである。
イスカンダーが殺された理由や犯人を捜すミステリでありながら、イマゴマシンや異文化をじっくり描く硬派なSFでもあり、その中にどんな文化圏でも嫉妬や羨望や陰謀があるのは変わらないと思わせてくれる宮廷活劇も含まれていて盛りだくさん。
序盤のもどかしさが終盤全て昇華されるのがすばらしく、さすがのヒューゴー賞作品だった。

