アーカディ・マーティーンの「帝国という名の記憶」の続編。ヒューゴー賞・ローカス賞受賞。盛大なネタバレ注意。
テイクスカラアンで、ルスエルの技術「イマゴマシン」と引き換えにルスエルの平和を勝ち取ったマヒート。
この騒動でテイクスカラアンは皇帝が変わり、マヒートは休暇のためルスエルに帰還していた。
しかし、ルスエルではマヒートのイマゴマシンに起こったイレギュラーが疑われており、それはマヒートからイマゴマシンが奪われることを意味していた。
この危機を乗り越えようと、あらゆるコネを使って対抗しようとするマヒート。
しかし、この世界ではイマゴマシンの安定がすべてに優先される。捕まって脳内のイマゴマシンを没収され、テイクスカラアン大使の地位を剥奪されることが目前に迫った時、テイクスカラアンでともに窮地を潜り抜けた盟友であるスリー・シーグラスが現れた。
現在テイクスカラアンは意思疎通ができない人間以外の知的生命体と戦闘状態に陥っており、そのコミュニケーション方法の確立及び交渉のため、情報省の役人としてスリー・シーグラスが抜擢された。
しかしスリー・シーグラスは、エイリアンとの会話を行う上で、異国のテイクスカラアンにおける困難を見事に乗り切ったマヒートの力が不可欠と判断し、密航を繰り返してルスエルへやってきたのだった。
結果的に危ない状況から救い出されたマヒートと、エイリアンとの交渉に対して何の確証も得られていないスリー・シーグラスは、艦隊司令官ナイン・ハイビスカスのもとへ出頭し、エイリアンとの邂逅を果たす・・・
前作が宮廷活劇であったのに比べ、本作の主題はファーストコンタクト。圧倒的な戦力と強力な酸を使ってテイクスカラアン軍を恐怖に陥れたエイリアンは、見た目からして人間とは全く異なる生命体で、聞くだけで吐き気を催す絶叫系のノイズで会話し、更には人間にうつると死に至る謎の真菌を有している。
手がかりがない中、どうにかしてエイリアンと惑星ベロア2で相まみえることになったマヒートとスリー・シーグラスは、そのノイズを手掛かりに理解できる単語を増やし、会話を試みる。
それとは別に、軍ではエイリアンの居住惑星を一つ見つけ出したことで、ここに惑星規模の爆弾を落とす計画が進行していく。
後継ぎとして生み出された、前皇帝の90%クローンであるエイト・アンチドートは、好奇心から軍事省に出入りするうちにこの事実に気が付き、エイリアンとは言え生命体であることに変わりはないと、その大量虐殺を防ぐために大胆な方法で挑んでいく。
この11歳の男の子に、皇帝に次ぐアクセス権がいろいろ与えられているのが非常に危険極まりないなぁ、と普段セキュリティにうるさい生活を送っている身からすると思うのだが、その危うさも相乗効果として機能しており、マヒートたちと対をなすストーリーの主軸として語られていくのが本作の面白さの一つ。
マヒートとスリー・シーグラスがエイリアンと会話を試みようとしている時点ですでに下巻の4分の1くらいを消化してしまっているので、どう決着をつけるのか注目していたのだが、結論から言うとこの二人の涙ぐましい努力はほぼ報われず、最後の最後でどんでん返しがあってあっさりと意思疎通に成功する。
本作で一番不満だったのがこの点。少しずつ理解できる単語を増やしていく系の言語SFを期待していたのだが、肩透かしを食らってしまった。意外性という意味では十分足りていたが、そっちか~。
最後畳みかけるように、このエイリアンとの意思疎通と、エイト・アンチドートの冒険と、マヒートのルスエルとの確執について、伏線が回収されていくのは爽快だったので、致し方なし。
作中でマヒートとスリー・シーグラスは女性同士のカップルが成立したはずなのだが、ラストは「その後、二人は仲良く暮らしました」とはならなそうな会話で締められている。
確かにマヒートはさんざんスリー・シーグラスを含むテイクスカラアン人たちから野蛮人扱いされていて、一緒になって終わったのではただの都合のいい女となってしまうため、自主独立に重きを置いたラストとなったのであろう。
一作目はスペースオペラと宮廷策謀とミステリが複雑に絡まり合いながらもうまく融合しており、状況を描写している文章を読むだけで読解力が試されるところが楽しかったが、本作ではそのベースが読者に理解された前提でのファーストコンタクトのストーリー展開であるため、前作とは違った脳の筋肉が試された感じがして、これはこれでよかった。



