観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

青天(若林正恭 2026年)

リトルトゥース(オードリーのANN〈オールナイトニッポン〉リスナー)としては、ぜひ読んでおかなければならない。Kindleでポチった。

アリこと中村昴は総大三高のアメフト部所属。
決して自分のプレイに自信があるわけではないが、アメフトに打ち込んでいる時だけが、将来の進路や彼女ができたことがないことなどの引け目を忘れていられる。
同期の河瀬と次に対戦する強豪校を偵察に行き、あっという間にバレて捕まるもお咎めはなく、監督からそのまま観ていくように言われる。
その情報をもとに攻略法と練習方法を二人で考えるが、実際には全く通用せず、彼らのアメフトはあっけなく終わった。
その後アリは不良仲間と付き合うようになるが、そこでもグループの輪に入りきれず、彼らの言動と行動の矛盾も感じていたこともあって、後輩のチョモこと高山の熱心な誘いに乗り、本来は引退している時期の3年生としてアメフト部に復帰する。
快く思わない後輩もいたが、その思いにはアメフトで返す。チョモや受験勉強中のはずの河瀬の協力を得て、アリは練習に没頭していく──。

「あの本、読みました?」などのテレビ番組やANNで若林さんが語っていたのは、登場人物は特定の人間を参考にしているわけではなく、自分やチームメイトを含め、いろいろな要素をつぎはぎして構成しているため、モデルがいるわけではないということ。
しかし、読者としてはアリ=若林さんとして見てしまう。
その脳内補完込みで作品が成立しているように思うし、本作が面白い理由の一つでもあるように思う。
アメフトのルールはほとんどわからないのだが、かえってその辺の説明がバッサリ省かれていることで、純粋に不器用な男子の泥臭い青春として楽しめる。
隠れて煙草を吸っていたり、原チャリをパクったり、学校の購買でおかずをくすねたりするシーンも臆することなく書いてあって気持ちよい。最近はコンプライアンスが厳しいので、久々にこういうのを見た。
また、アリは高校生のうちから哲学になんとなく興味を持ち、倫理の岩崎先生にざっくりした疑問をぶつける。岩崎先生は質問の内容はともかく、質問をもらったこと自体が嬉しくて、アリにいろいろなことを教えてくれ、さらには自分の心のうちも自己開示してくれる。だいぶ齢がいったおじさんとしては、この岩崎先生の嬉しさに共感して胸が熱くなってしまう。
若林さんが若い頃から抱えていた、大人や社会に対する不満や鬱屈した感情が具体的に示されていて、10代の頃から呪いのように脳内を渦巻いていたことがわかる。
そしてその脳内は、同じ世代だったころの僕自身に渦巻いていたものでもあり、作中のアリと若い頃の若林さん、同じころの自分、それぞれが幼気(いたいけ)でいたたまれなく、でも微笑ましく感じて泣きそうになる。
そして最後の試合で、チーム一丸となって全力を振り絞るところが、フィクションとわかっていても熱い。こんな青春したかったと羨ましくなった。
そして珍来という町中華のお店のエピソードは、ANNでも頻出している「長楽」という実在したお店が基だと思うが、店主との乱暴なやり取りと、どれをとってもおいしそうな料理の描写がラジオで聞いていた通りでよかった。食べてみたいなぁ。

 

連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―(2024)

WOWOWのドラマ。アマプラで視聴。映画の続編。

日露戦争の英雄、不死身の杉元とアイヌの少女・アシリパが、アイヌの金塊を巡って、網走監獄の脱獄囚24人に彫られた刺青の地図を追い求める。
その莫大な財宝を探しているのは杉元達だけではなく、元新選組土方歳三一派と、第七師団の鶴見中尉一味もおり、三つ巴の争奪戦となっている。
山中で出会う伝説の熊打ち、ニシン漁師に身をやつしていた殺人鬼、女装のホテル主人、居合の達人であるヤクザの組長など、様々な刺青を持った脱獄囚たちと相まみえ、時には戦い、時には仲良くなり、それぞれが刺青人皮を集めていく。

ストーリーについては今さらなので割愛。
映画の時も思ったが、選び抜かれたキャスティングに改めて感心する。
更にメイクや衣装で限りなく原作に寄せていっているのがプロのお仕事な感じがして、それを見ているだけでもウットリと時間が過ぎていく。
杉元だけ、山崎賢人がきゃしゃなイケメンすぎてちょっとアンマッチなのだが、でも精いっぱい頑張っていたのでよし。
アシリパの山田杏奈は最初、ちょっとほっぺが真ん丸でかわいすぎるかなと思っていたのだが、ひたむきな感じがとてもあっていてよかった。
というかこの話、確かにストーリーは凝っていて、アイヌのこともしっかり描かれている骨太な構成なのだが、あまりにもキャラが強すぎて、キャラを際立たせるための場面転換でしかないようにも感じてしまう。
実写版はアニメよりもさらに「このキャラよく作り込んだなぁ」感を強く感じてしまうので、なおさら思ってしまうところもある。
特に白石の矢本悠馬の怪演が光る。ちょっとキモくてかわいい感じがとてもよく出ていてよい。
あと、高橋メアリージュンのインカラマッも素晴らしい。美しく妖艶でいながら静謐さも感じられるたたずまいの再現度が非常に高い。
キャラを言い始めてしまうと、鶴見中尉の玉木宏土方歳三舘ひろし、尾形の眞栄田郷敦、キロランケの池内博之、鯉登少尉の中川大志などなど、枚挙に暇がない。

劇場版と違い、50分前後のドラマが9本ということで、時間がたっぷりあるので、話をあまり端折らずじっくり描いているのが印象的。
ただ、そのためかエピソードによっては「ここは端折ってもっと早く進めてよ」と思うところもちらほらあった。日高のヒグマとの戦いとか、もうちょっとあっさりでよかった。
逆に夕張の炭鉱の戦いなどはもっとじっくり見たかった。まあこの辺は好みだろうな。

お話としては、小樽~札幌~日高~夕張を経て、旭川での白石奪還で終わっているが、続編は3月の劇場公開。
その番宣としてプライムで公開されているのだろうが、どうしても続きが観たくなってしまった。思う壺すぎるが仕方がない。観るぞ!

 

 

 

覚書>Amazon Fire TV StickのリモコンでALEXAが反応しない時の対処法

Fire TV Stickで子供の視聴に制限をかけたくていろいろ試したところ、Amazon Kidsのアプリで子供のアカウントを作り、それを制限するという方法にたどり着いた。
さっそく試してみたが、どうもうまくいかない。
元々子供向けにはFire TV Stick上で閲覧用のアカウントを作成済みだったが、それと紐づけたいのだが方法がわからない。
半日ほどつぶしたところで諦めた。

しかし、そのあとからFire TV Stickの起動時に、普段の4桁とは別の、5桁の子供アカウント用PINを求められるようになった。めんどくさい。
更に、なぜかリモコンのALEXAボタンが反応しなくなった。
なにか制限をかけていると思われるが、いろいろ設定をいじっても元に戻らない。
子供が普段から何かにつけてALEXAで遊んだり検索したりしており、「早く使えるようにして!」とせがまれた。なんとかせねば。
ググったところいろいろ出て来たが、以下のAmazonForumにたどりついた。

Amazon Digital and Device Forums - JP

 

ここで試せと言われているのは以下。

1.リモコンの電池が正しく入っているか確認。
 →今まで普通に使えている。これではない。
2.Fire TVを再起動。
 →Fire TV StickからUSB電源ケーブルを抜いて20秒ほど置き、再接続。ダメだった。
3.再起動で改善されない場合、リモコンのリセット。
 →やったが変わらず。
4.リモコンアプリで問題を切り分ける。
 →スマホにリモコンアプリをインストールして、
  リモコンが悪いか本体側が悪いか切り分ける。
  スマホでもALEXA反応せず。本体側が悪い?
5.Fire TV Stickのリセット
 →Fire TV Stickを工場出荷状態に戻す。
  結論としてはこれがビンゴだった。

Amazon Kidsの煩わしい5桁PINから解放され、ALEXAも使えるように。
Yahoo!知恵袋では「数年使っていたらハードも壊れますよ。買い換えたら?」
みたいな無責任な回答がベストアンサーになっていたりして、あの手の情報は信用できないこともある、ということを改めて実感。
今後もし同様の事象が発生したとしたら、迷わず5番から試そう。
いい勉強になった。

 



AKIRA(映画 1988年)

年末年始のNHKのリマスター版放映で視聴。

1988年、東京で新型爆弾が爆発して第三次世界大戦が勃発。
31年後の2019年、新首都ネオ東京では、アーミーとゲリラが衝突していた。
高校生の不良少年・金田は、仲間たちと共に敵対する暴走族との抗争に明け暮れていた。
ある日、ハイウェイで大立ち回りを演じた後、仲間の一人・鉄雄は、青白い肌と老人のような顔をしたタカシという少年との間で生じた事故により負傷、アーミーに連れ去られてしまう。アーミーの大佐は、自らが監視下に置く超常能力を持つ少年少女ナンバーズと同じ潜在能力がある鉄雄を管理下に置こうとする。
金田は取り調べ中に反政府組織の少女・ケイに一目ぼれするが振られる。
アーミーの病室に軟禁された鉄雄は超常的な能力に目覚め、幻覚に苦しめられる。哲夫の力を憂慮した、アーミー配下で保護されていた少年少女3人・ナンバーズの仕業であった。鉄雄は徐々に力を発揮できるようになり、能力を振るい力づくで脱出する。
金田は仲間たち、そして新たなナンバーズ候補の鉄雄の情報を得ようとしていた反政府ゲリラたちと共に、鉄雄を救い出そうとアーミーの施設へ侵入するが、鉄雄はそれを拒否。幻覚で見た少年・アキラの情報をナンバーズから入手し、自らアキラのもとへ向かう。鉄雄に仲間を殺された金田は、鉄雄を倒そうと決意する。
鉄雄がアキラのもとに向かい、施設を全開させてようやくアキラのカプセルを開く・・・

本作は若い頃に観ようとしたことがあったのだが、ストーリーに入り込めず挫折した。今にして思うと、当時はまだまだカッコいいスーパーヒーローや勧善懲悪のわかりやすい話しか受け付けない未熟な感性しかなく、本作の良さが理解できていなかったようだ。
今改めて観ると、妥協のない映像美に圧倒される。特に称賛されている冒頭の暴走族同士のハイウェイでの抗争シーンはすごい。非常に細かいところまで省略せずに書き込まれていて、これを全部アニメーターが手書きで描いていたのかと思うと敬意しかない。
ビルとビルの谷間から奥の道路の様子を映し、フォーカスが徐々に手前に移っていき、最後は手をかけている金網が映る、みたいな微細な描写が必要なシーンが惜しげもなく描かれていて鳥肌が立つ。
爆発のシーン、バイクチェイスのシーンなどの描き方もステロタイプな絵に逃げずにリアリティを追求した絵になっているので、ワンシーンごとに見せ場が来て飽きさせない。
治安の悪化した世界で軍隊が社会を管理しているディストピア的な世界観で、ナンバーズや鉄雄は超常的な力を持ちつつも多大な代償が必要、というシリアスな状況の中で異彩を放っているのが主人公の一人・金田。どんなに打たれても凹まず、この話の中では違和感さえ感じてしまう能天気さとポジティブさで状況を打開していってしまう。
鉄雄側の圧倒的な超常能力に立ち向かうにはそれくらいでないと釣り合わないのだろう。
なんでこの人だけ名字で呼ばれているのか謎だったが、視聴後にググったら「鉄人28号」の主人公・金田正太郎へのオマージュとのことであった。そういうことでしたか。
ヒロインのケイがもうちょっとかわいければよかったと思うのだが、大友克洋作品では致し方ないところ。本作の5年前に公開されたアニメ映画「幻魔大戦」でも大友克洋のキャラクターだったが、原作小説では美少年ヒーローに美少女ヒロインなはずなのに、主人公はデコッパチだしヒロインはアーモンドアイのきつい顔立ちで、だいぶブーブー言われていた。でも雰囲気には非常にマッチしていて、今ではあのキャラでなければ考えられない。
それにしても金田のバイクがカッコよすぎる。今見ても全く古びていない斬新なデザインとカラーリング。これを実写で実現させようと世界中のバイク好きが躍起になるのもわかる。いつか乗ってみたいよなぁ。
ラストについては詳細を避けるが、超常的な能力が枠に収まらずに飛躍・飛翔するイメージとなっており、様々な名作SFを彷彿とさせる描写となっている。
日本のアニメが世界的な評価を受けた代表的な作品であり、今なお色褪せない名作であることが改めて確認できた。
10回以上見ているが「幻魔大戦」も改めて観てみようと思う。

 

 

 

 

パリダカ漂流(島田荘司 1991)

ミステリ作家 島田荘司旅行記。たまたま図書館で手に取って興味が湧いたので読んだ。

前半3日ほどはエジプト・カイロで、知人のエジプト人の伝手でガイドを雇って観光。
ギザのピラミッドを見物。
ギザのピラミッドが如何に天文学上の数字を精緻に反映しているかについて詳しく解説している。
この人ミステリ作家だったよな、SF作家じゃなかったっけ?というくらい詳しい記述で、夢とロマンをそそる。
確かにピラミッドの大きさや方角、内部構造の角度や長さなどが、地球の公転周期など様々な天文学上の数字を反映しているという話はよく聞くし、子供のころから「学習と科学」や「小学〇年生」などの子供向け雑誌で盛んに取り上げられていたのでなじみ深い。
それを自分の目で生で観た時の感動を伝えたいという思いが文章から伝わってくる。
ガイドのハニーは非常に親切で、本職は別に持っているが、その合間を縫ってプライベート時間も使って便宜を図ってくれる。
普段自分が旅行する時にガイドを使おうという気にはなかなかならない。
円高だったからできたのか、島田荘司が既に売れっ子作家でお金に余裕があったからできたのか、単に僕がケチなだけか。
結局こういう、いい人との出会いが旅をいいものにする。
景色や食べ物の記憶もよいものだが、いい人に会って、親切にしてもらった思い出も心に強く残る。遠い地でも人の温かさやホスピタリティは共通であることが確認できるとホッとする。
後半は1991年のパリ・ダカールラリーにプレスとして参加した見聞録。
砂漠を走るレース、くらいしか知識がなかったのだが、こんなに過酷で、大人の世界で現実的な問題と無理くり相対しながら、綱渡りのような運営で実施されていることを改めて知った。
しかし、政情不安定な国もつっきるというのは正気の沙汰ではないわけで、実際作中でもイラク湾岸戦争に突入して様々な悪影響を及ぼしたり、治安の悪いところで参加者が銃で撃たれて死亡したりと、確実にレジャーではない求道的なレースとなっている。
世界中から注目されており、スポンサーが付きやすいということもあるのかもしれないが、いい大人たちがレースの完走だけを目指して金や人力を投入しまくっていく様は確かに爽快ではある。
しかし、砂漠の中を一日中200km/hで突っ走るレースと言うのは考えただけで尻がゾワゾワする。
島田荘司の立ち位置としては「プレスに同行して観戦旅」。気楽に見えるが、道中は砂漠の中でのテント泊を強いられ、風呂にも入れず、ほとんどサバイバルのような生活となる。それを誇らしく語っているのが、男の子っぽくてかわいい。
国から国へ飛行機で渡り、それぞれの地の中継地点まで行って、その日その日のゴールを観戦する。日々の生活は過酷になるが、やっていることは豪勢な遊びで、安全さえ担保されればこういうのを一生に一度はやってみたい。
また、道中、数年前に訪れて街角で1時間ほど立ち話しただけの物売りの美少女にもう一度会いに行く、というエピソードもキュンキュンした。いい話だなぁ。

Dの殺人事件、まことに恐ろしきは(歌野晶午 2016)

「葉桜の季節に君を想う」の流れで、こちらも有名なので読んでみた。ネタバレ注意。
それぞれ江戸川乱歩の作品のオマージュではあるが、内容はオリジナル。

[椅子? 人間!](元作品「人間椅子」)
人気女流作家にメールで付きまとうストーカーは元パートナー。自分にも後ろめたいところがあるので邪険にできず、ズルズルとやり取りを続けてしまう。
人間椅子」の要素を現代風に取り入れた話だが、元作品もほぼファンタジーで、そうはならんやろ、という展開。でも想像力をそそられる点ではよかった。
スマホと旅する男](「押絵と旅する男」)
元人気アイドルの女性とスマホでビデオ通話しながら旅をする男と知り合う。
こちらは逆に今どきこういう人がいてもおかしくない、と思わせる内容。
通信費が怖すぎてWIFIのないところでビデオ通話なんてしたことがないのだが、お金を気にせず使えばこういうこともできる。
最後はよくわからんかった。ホラー?
[Dの殺人事件、まことに恐ろしきは](「D坂の殺人事件」)
ラブホテル街で起こった殺人事件を、うだつの上がらないカメラマンと小学生男児が解決しようと奮闘する。
こんな頭のいい子供がいたらラブホ街などに埋もれさせずに、いい教育を受けさせてやりたいものだ。
というか通報されたら怖いので、男の子女の子を問わず、自分の子供ではない他人の子にコミュニケーションをとろうとは思わないので、ある意味ファンタジー
[「お勢登場」を読んだ男](「お勢登場」)
20も年の離れたバリキャリ妻を持つ主人公は、仕事を退職後は介護が必要な妻の父の世話をしているが、それにうんざりしている。
「お勢登場」からインスパイアを受け、よからぬことを思いつく。
まあそうなるよな、というラスト。でも腑に落ちない点がある。父はどうする?
[赤い部屋はいかにリフォームされたか?](「赤い部屋」)
劇中に殺人が起き、それはストーリーではなくマジもんだった。恐怖におびえる観衆。
最後のオチ必要かこれ?
[陰獣幻戯](「淫獣」)
自分は性的異常だと自認する男。いやいや、そんなの異常でも何でもないから。
と男性読者に言わせたいんだろうなぁ。
妄想の内容も行動もおっさんにはわかり味がありすぎて怖い。
[人でなしの恋からはじまる物語](「人でなしの恋」)
スマホ恋愛ゲームの話かと思ったら夫をカッとなって殺した女性の話。
行きがかり上、70代の孤独な男性と前科ありの20代女性が仲良くなる過程が少しだけ垣間見えたので満足。
でもオチはストーリーとほぼ関係ない。

10年ぶりか20年ぶりにミステリの短編を読んだ。
大学生の頃の読書サークルの先輩による「短編は切れ味が全て」という名言を思い出す。
本作も一編一編の切れ味が素晴らしく、指をスパッと切ってしまいそうな危うさと鋭さがある。
普段SFとファンタジーばかり読んでいるけど、たまにはミステリを読もうかな。

 

十角館の殺人(綾辻行人 1987)

35年前に読んだが、一番大きなトリック以外ほとんど忘れてしまっていたので再読。ネタバレ注意。

1986年、大分県K**大学の推理小説研究会のメンバーが、角島(つのしま)という孤島にやってきた。
ここは過去に、建築家・中村青司とその妻、および使用人の北村夫妻が、焼け落ちた中村邸「青屋敷」で見つかるという陰惨な事件があった跡地があり、その離れである「十角館」で合宿をするためである。
メンバーたちはお互いを著名な欧米のミステリ作家の名前にちなんだあだ名で呼び合っている。
医学部4回生で口ひげを生やしたポゥ、法学部3回生で捻くれた性格のカー、法学部3回生で金縁眼鏡、会誌「死人島」編集長のエラリイ、理学部3回生で不動産業の叔父がこの島を購入したヴァン、薬学部3回生でソバージュ女性のアガサ、文学部2回生で引っ込み思案なオルツィ、文学部2回生で小柄で眼鏡、童顔のルルウ。
一方、本土では、推理小説研究会及びその関係者宛に、かつて会に所属していて酒宴で事故死した中村千織について、殺されたと告発する怪文書が届いていた。
元研究会員の江南孝明は、彼女の親族である中村紅次郎を訪ねていく。そこにいた紅次郎の大学の後輩・島田潔と一緒に事件を解明しようと、今回の度には参加しなかった研究会のメンバーで江南の友人、守須恭一に話を聞く。
島では楽しい合宿がスタートしたかに見えたが、3日目の朝、メンバーの一人が殺される。ドアには「第一の被害者」というプレートが貼り付けられており、メンバーたちは自分たちの中に犯人がいるのではと疑心暗鬼になる。
そしてこれはこのあとに続く連続殺人の始まりに過ぎなかった・・・

学生の頃も今もミステリはあまり読まないが、周りに好きな人が多かったので、名作だけを選んで薦めてもらったのはとても幸運だった。本作もそのうちの一作。
しかし、思い出した思い出した。この大学サークル特有のアイタタタな感じ。
僕も大学の自分、似たようなサークルに入っていたので、イタいあだ名をつけて、スノッブっぽいことを言ってかっこつけている様子が、自分のことを言われているようでひたすら同族嫌悪で恥ずかしく、羞恥心が励起されていたたまれなくなる。
もちろん作者がそれを想定して書いているのは間違いなく、なんということをしてくれたのだ、オタクサークルへの偏見がより高まってしまうではないか、と当時思ったものだ。
ストーリー自体は、島と本土がパラレルで進行していく複雑な構成であるにもかかわらず読みやすく、きちんとわかりやすい事実確認が行われながら進んでいく。
メンバーたちが動揺して憔悴していく様と、残酷にも繰り返される殺人、少しずつ明らかになる本土での調査による過去の事実が折り重なり、最後の犯人の独白で一気に伏線が回収されるテンポが素晴らしい。
ただ、ミステリで連続殺人ものを久々に読んだおかげで、「こんなにポンポン人って殺せるんだっけ?」と改めて思ってしまった。
作中冒頭で語られている通り、ミステリは純粋な知的ゲームであり、殺人はそのシチュエーションにすぎないが、殺し屋稼業でもしていない限り、一人殺しただけでメンタルがやられて使い物にならなくなりそう。
それだけ犯人に強いモチベーションがある、という前提で理解しよう。
巻末の鮎川哲也の解説で「吹雪の山荘」の説明を読んで、「そして誰もいなくなった」(クリスティ)は読んでいたので、そういえばあったなぁと思い出した。
これはいろいろなドラマやアニメなどでも使われており、そちらですっかりなじんでいたが、言われてみれば本格物のパターンであった。
本作は日本の新本格ミステリの嚆矢と言われており、その栄誉にふさわしい堂々たるトリックとストーリー。読むのは2回目だが新鮮に面白かった。記憶力がないと楽しみが増えていいなぁ。
作中出てくる探偵役の一人、島田潔の出番があっさりしているなあと思ったら、このあと続く「館」シリーズを通した探偵役だったか。他の「館」シリーズは読んだことが一度もないので、いずれ読んでみたい。