まだ今のようにラノベが一般的ではない時代、「ライトSF」というジャンルが1980年代の日本の世の中にはあった。
その中でも印象深い二人が、火浦功と岬兄悟である。
岬兄悟の本は手元にないし、今どき図書館にもないので、残念ながら取り上げることができないのだが、火浦功は好きで何冊かある。
本作はその中でも火浦功の色が濃く出ているスチャラカライトSFとなっている。
宇宙の傭兵として高い技量を持ち、そののち「美しきブロンドの狼」として凄腕の殺し屋となったキース・バーニング。親友の裏切りに会い、心が傷ついた孤高のシリアス一匹狼として、悲しみに暮れながらやってきたバンザイCITY。ここでは普段からふざけてばかりでお笑いを最優先するようなトリガーマンチームのリーダー、ミリアムから見染められ、強引にチームへ引きずり込まれてしまう。
あくまでもシリアスに、悲しみに暮れたいキースと、冗談のような会話しか成立しないお笑いチーム。好むと好まざるにかかわらず、徐々にチームのペースにはまり込んでいくキースであった。何よりラーメンがこんなにうまいとは・・・
登場人物が冗談やギャグを言いながらストーリーを進めていき、時には話よりお笑いの方を優先するという手法は火浦功独特のもので、当時は落ち込んだ時に笑って元気になるためによく読んだものだった。
当時のオタクたちはまだ生存権が確立されておらず、オタクであることがばれるだけで弾劾追放されかねない世界情勢だったので、みなひっそりとこういうコンテンツに心慰められながら生き抜いてきたのである。
今のように「なろう系」がドンドコと書籍化され本棚にずらりと並ぶ時代をだれが予想したであろうか。
おっさんとしては隔世の感がありすぎて泣けてくる。よくここまできたなあという涙でもあり、こんなあけすけなものじゃないんだよオタクは、という年寄りの回顧の涙でもある。
SF作家である豊田有恒の元に集まった若手クリエイター集団「パラレル・クリエーション」のメンバーで、他にはメカニックデザインの出渕裕や、ここでも取り上げた漫画家のとり・みき、ゆうきまさみなどが所属していた。
当時はこの集団がとても楽しそうで、それでいながら人気作を次々と上梓していく才能にあふれた彼らにとても憧れていたものだ。