観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

横浜駅SF 全国版(2017 柞刈湯葉)

横浜駅SF」の外伝的な短編が6編。
■プロローグ
北海道の青函トンネルで、横浜駅の構造遺伝界が侵食してくるのと戦うJR北日本の人々の話。
■瀬戸内・京都編
挫折を経て島に一人で済む人間、熊野シドウと、JR北日本から工作員として送り込まれ、任務を忠実にこなすハイクンテレケ。その交流、シドウとケイハの半生、ハイクンテレケとの別れ。
■群馬編
コーカソイド系の人種でエキナカの医者をしている青目先生と、スイカネットの制御や操作に詳しい二ジョー君。浅間山の噴火を予測し、住人を避難させる。
■熊本編
JR福岡の中で起きた殺人事件と、その被疑者になった中年の男、そして彼を助けるため奔走する若手女性社員。その中で判明した社員の反目。
■岩手編
横浜駅への潜入工作員として作られた十二体のアンドロイド、Corpocker-3。彼らは個別にアイヌ語由来の名前を付けられ、8体が潜入捜査中。
その中でもサマユンクルは知性が高く、普段から冗談ばかり言っているが、独自の思考を続けていった結果・・・

どれもこの横浜駅世界をより深掘りして知ることができる良作。なかでも、アンドロイド君たちの個性とそれに基づく行動が知れるのがとても楽しい。
サマユンクルはほぼ人間へと近づいたが故に離反してしまうのだが、その彼が何をなすのか、改めて読んでみたい。
また、彼らを創造した「ユキエさん」が伝聞ばかりで語られ、ご本尊は作中ほぼ全く出てこないのだが、これもまた興味深い。

横浜駅の中はだいぶ狭い通路だらけでそんなに住みやすくはなさそうなのだが、自動水耕栽培で植物系の食料も豊富にあるようだし、少なくとも生活していく分には支障がなさそうなので、一度住んでみたいものだ。
しかし、「北海道へと増殖の手を伸ばしているがそれを阻止される横浜駅」「浅間山を覆いつくしている横浜駅関門海峡に構造物を伸ばして九州の地へ構造遺伝界を侵食させようとしている横浜駅」など、生まれてから若年期までを横浜で過ごしてきたものとしては誇らしさと違和感がぐちゃぐちゃになった複雑な感情が渦巻くのだが、それがこの本を読んでいる中でも一番の快感というかドラッグというか、いっぱいトリップできた。