本を読む人であれば、10代のころあたりに必ずと言っていいほど通り過ぎる作家だったが、最近はどうなのだろうか。もう古典扱いなのかな?
筒井康隆はカテゴリーこそ日本SF御三家とも言われSF界の重鎮と目されているが、その作品はあまりSFの風味は濃くなく、スラップスティックだとかドタバタだとかシュールだとかパロディだとか言われる感じの作風で有名である。一言でいうなればお笑いSFなのだが、ただ笑わせるという感じではなくブラックなユーモアやペーソスがふんだんに盛り込まれている辛口な感じ。
本作はその中でもより筒井らしい短編が入っており、特に冒頭の「バブリング創世記」は破壊力抜群。
「ドンドンはドンドコの父なり」から始まり、際限なくいろんな人や物がいろんなものを生んでいくという、ただ聖書の創世記に出てくる誰それが誰それの父で、誰それが誰それを生んだという記述がいっぱい出てきて「うんざりするほど出てくるなあこれ」と思った時の気持ちをパロディで茶化していて、ちょっとプッと吹き出してしまいそうな感覚をよく再現している。
そして「ヤスタカはシンスケを生めり」で思わずニヤッとしてしまう。
「死にかた」は、一言で言うと職場に鬼がやってきて自分も含めてみんなこん棒で殴られて殺されるというただそれだけの話なのだが、それぞれの命乞いの仕方が人間の(特に日本人の)醜いところをふんだんに表していて、ああ俺の知り合いにもこういう心が醜そうな人いるよなぁと自分を棚に上げて思いにふけってしまうこと間違いなしな再現率が秀逸。
後の短編も心の醜さや残酷さを忖度も妥協もなく色濃く描写していくという点では共通していて、若いころにこういう強烈なものに出会ってしまうとすぐ染まってしまうんだよなぁ。
それまでは理系志望だったのだが、中学高校で筒井康隆に出会ってしまったがために心理学を学びたいと思ってしまい、文系に転向してしまったのが今でも悔やまれるが、それくらいの影響力を持った作家であった。