観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

三体(2008 劉慈欣)

中国のSF作家・劉慈欣(リウ・ツーシン)の「三体」三部作の一作目。ネタバレいっぱいするので注意。
かねがねすごいという噂は聞いていたが、ドラマ化が日本でもリリースされるという話を聞いて、これは読まねばなるまいと思ったのが昨年末。
ちょうどBLACK FRIDAYのあたりで早川書房Amazon Kindleブックの半額セールをやっていたので、思い切って三部作をすべてKindleで買ってしまった。普通に買ったら全部で1万円くらいだが、お得に買えてよかった。
それがやっと全部読み終わったので、あらすじ(ネタバレあり)と感想を書く。

時は文化大革命の時代、親を非情な吊し上げで殺された女性・葉文潔は、外宇宙の知的生命体とのコンタクトを目的とする軍の紅岸基地へ配属となる。そして人類に深い絶望をいただいた葉文潔は、この基地で発見した、太陽を使った通信技術を用い、地球文明の情報を送信した。それは地球文明を陥れる、人類への裏切りに他ならなかった。
現代の中国で、「三体」というオンラインゲームがリリースされた。そのゲームの舞台はこれまで見たことがないような奇妙な世界であった。太陽が3つあり、その世界の人類が快適に生活できる恒紀と、太陽が近づきすぎてすべてが熱せられてしまう乱紀が交互にやってくる。これらの太陽は質量が同一であり、どのタイミングで恒紀と乱紀がやってくるか、皆が予測しようと躍起になっているが、誰もそれを成し遂げることができない。この世界の人々は、乱紀になると体から水分を排出し、ペラペラの皮一枚になってしまい、その状態で次の恒紀を待つ。その間に破けたり、食べられたりしたら死んでしまうため、常にリスクを伴う。また、この世界はいつ3つの恒星に飲み込まれるかもしれない危険をはらんでおり、恒久的な対策はこの世界からの脱出であった。
この「三体」は、実際の三体世界を人類の歴史上の人物や出来事に置き換えて表現されたものであり、三体星人は実在した。彼らは葉文潔の通信により地球文明の存在とその位置を特定し、地球人を滅ぼして自分たちが地球へ移住することを決意する。
しかし、地球をはるかに凌駕する科学力を持つ三体星人でも、地球にたどり着くには約450年の歳月が必要である。その間に地球の科学力が三体世界の水準まで拮抗することを恐れた三体星人は、地球の基礎科学が発展しないよう、「智子」プロジェクトを発足する。それは陽子を11次元から二次元に展開させ、それを集積回路とすることで、「智子」(ソフォン)を作る。それを複数展開し、一方は通信用として三体世界に残し、一方は次元の狭間を越えて地球に送り込み、科学力が向上しないよう、時には実験結果に干渉し、時には主要な科学者の視神経に介入するのだった。
「三体」は、葉文潔をリーダーとする地球三体組織が、三体星人に地球を明け渡すべく地球側で同志を見つけるために開発したゲームであった・・・

最初は文化大革命の理不尽さ、残酷さがしつこく描かれる。また、当時の軍の規律の厳しさがこれでもかと描写されるので、この話は中国の軍人の話なのかなと錯覚するほどである。しかし、それだけ念入りに書かれるのは、葉文潔に人類を裏切らせるに至った経緯の必然性を醸したいからということが後から分かる。
読み進めると、太陽を使った大規模通信とか、恒星が3つ絡まりあって惑星に影響を及ぼしているのにその世界で発展する知的生命とか、エッジの効いたアイデアが次から次へと惜しげもなく提示されるのにとにかく圧倒される。それでいて、主要メンバーは中国人なので、意思決定というか人々の考え方というか、そういうものが中国人テイストの方向に向かいがちなところが新鮮に感じる。
これまで親しんできた主な海外SFは良くも悪くも欧米が主流だったので、もっとドライというか感情は抜きにした話の展開が大前提で、それがお約束であり暗黙の了解ごとだったのだが、この「三体」では人々の感情が非常に重要視されており、それによって世の中が大きく動いたり、時には目を覆いたくなるような悲惨で愚かなことがまかり通ってしまうことが世の常として描かれている。それが読んでいてとても中国っぽいなぁ、でも実際はこうかもしれないなと思わせる説得力を持っている。
それと奇抜なアイデアが絡まりあい、これまで体感したことのない壮大且つ唯一無二の世界観が目まぐるしく展開される。これは確かにすごい。
この三体世界に対して、人類はどう立ち向かうのであろうか。・・・と言いつつもう読んでしまったので、三体Ⅱおよび三体Ⅲについてもいずれ触れたい。