観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

地獄の田舎暮らし(2021 柴田 剛)

生まれも育ちも現在地も結構な大都市で、ごみごみした風景にげんなりしている。
どこまで行ってもアスファルトで、ちょっと高いところから見渡しても地平線まで人工物が埋まっている。
コンサートや演劇、展覧会などに足しげく通うこともないし、お酒が飲めないので夜の街にも縁がなく、引きこもり体質であることもあって、都会にいるメリットをほとんど感じない。
いつか経済的に許される日が来たら、自然が豊かな田舎に暮らして、澄んだ空気と木漏れ日、涼やかな気候、おいしい水や食べ物を味わい、夜は薪ストーブで焚火をして過ごしたい、と思うのも無理はないと我ながら思う。
Youtubeで田舎の古い民家のリノベーションや地方移住の動画をあれこれ見たりして、いつかは僕も・・・と妄想を膨らませたこともある。
しかし、現実は・・・というのが本書。

今、コロナ禍でテレワークが普及し、都会に住まなくても仕事が成立するようになってから、一大移住ブームとなっている。
昔だったら見向きもされなかったような物件が飛ぶように売れ、不動産業者もこの需要を当て込んで、山林を開拓して別荘地・住宅地を開発し、それがまた売れている。
そのため、移住者は多くなっているが、定住する人は増えていないという。
それは、移住したもののうまくいかず、都会へ戻ったり別の場所へさらに移住してしまうケースが多いことを示唆している。
そもそも、地元の人たちは移住者を快く思っておらず、自分たちの土地によそ者がやってくることにおおよそ寛容ではない。
都会で成功し、お金を稼ぐことができたからこそ、移住という消費が行えるわけで、その余裕がある移住者を嫉妬心をもって見ている。
そのため、そもそもどんなに受け入れてもらおうと努力しても、マイナスからのスタートとなり困難な道のりになることが予想される。
また、今から購入できる家や土地は、この一大ブームの中で売れ残った案件であるわけで、何らかの問題があると疑ってかかる必要がある。
いろいろなことを確かめたはずと思って購入しても、土地保有者の思惑や業者の暗躍で、目の前の風光明媚な風景があっという間に宅地造成されたり、ソーラーパネルが敷き詰められた無惨な光景となる可能性もある。
移住イコール相当な額のお金を消費する、ということなので、地元の人間や業者がここから利益を得ようとあの手この手で攻めてくるのをかわし続けなければならない。
また、移住者同士でもマウンティングや怪しげな団体への勧誘などがあり、問題は尽きない・・・

とにかく田舎移住に関するデメリットが怒涛のように展開され、息つく暇もない。
表現もだいぶ煽情的というか扇動的なので、ちょっとオーバーに言っている部分もあるのではないか、という気もするが、まあそれくらいで受け取っておいてちょうどよいということなのだろう。

ただ、最後に「それでも移住したい人」に向けたある夫婦の例が紹介されており、胸を打たれた。
ある地域を気に入ってそこに別荘を購入した夫婦は、子供が小さい時から成人して大人になり巣立っていくほどの期間、その別荘地で別荘を保有し続けたが、ずっと同じ家屋ではなく、何度か買い直しをして、地元の良さや問題を理解し、情報を収集した上で、よりよい別荘へとグレードアップしていった。
最終的には個人の農園も保有し、様々な果物を丹精込めて育てたという。
そして最後、もう別荘は必要ないと判断し、壊れた個所は丁寧に補修した上で、希望の金額で売ることができたのだそうだ。
しっかりと時間をかけて情報を集め、その土地を好きになりリスペクトを持つことが重要だと教えられた。
他にも、道路へ出る道は南に作る(北に作ると凍って溶けなくなりアイスバーン化)とか、景観は自分の土地の林で作る(広く使おうと全部伐採してしまうと、隣の土地にソーラーなど建った時に視線を防げない)、などの実践的な知識も役に立った。

まあでも、これだけの話を読んでしまうと、田舎への移住はしたくなくなってしまったなぁ。
たまに行くくらいがちょうどいいのかな、やっぱり。