観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

おやすみ オポチュニティ(2022)

Amazon Primeで公開されたドキュメンタリー映画

2003年、NASAが火星に送り込んだ探査車(ローバー)、「オポチュニティ」と「スピリット」。これらは火星探査活動を行う前提で作られた。自律的に動き、様々なデータを取得して地球へ送信するのが彼らの役目である。
地球で様々な実験や改造を繰り返し、決められた納期に間に合わせるために様々な工夫ないしは間に合わせの処置が施され、なんとか2台は期限に間に合い、火星へと打ち上げられたのだった。
当初は90日程度が活動限界とされていたが、ありがたいことに強い嵐に見舞われたせいで、ローバーの太陽光パネルから粉塵が綺麗に取り去られており、オポチュニティとスピリットはまだまだ稼働が可能な状況にあった。
そこで研究者たちは、当初の予定にはなかった大探索旅へ彼らを送り出すのだった。

火星に到着して着陸する方法はどうしても例の有人月面探査っぽい奴を思い浮かべてしまうのだが、本件ではなんと全体を丸いエアクッションで覆って、そのまま上空から落としてボインボイーンとボールが弾む感じで衝撃を吸収しておろすというもの。
火星に大気があるからこその方法だが、なんというか力技な感じがする。
また、基本的に距離が離れすぎていてリアルタイムでの指示やラジコン的なコントロールは行えないので、おおよその命令を送信し、それを受け取ったローバーがある程度解釈して自律的に動くという方法が取られている。これだと不測の事態が起きたとしても、ある程度はローバーが自力でリスクを回避する余地が生まれる。
このため、ローバー達は単なる機械や端末ではなく、NASAの人たちにとっては愛する家族の一員として扱われており、スタッフの人々が如何にオポチュニティとスピリットを大切にしているかが入念に描かれている。
それを表すエピソードの一つが、ローバー達に対して毎朝かけられている「目覚めの一曲」。時間感覚が失われがちなNASAでは伝統的なことなようだが、彼らローバーに対しても毎朝違う曲が送られる。
正直米英ポップスにはあまり詳しくないので、よく知っている人だったら感涙にむせぶところもあったのだろうが、ちょっとピンとこなかった。でも、これ聞いたことある!的な曲は何曲もあって、グッとくるメジャー曲ばかりが選曲されていたのだろうなあと察せられる。
また、NASAの人々も非常に人間的というか、優秀且つ知性・理性的なこの分野のトップの方々が集まっているとはいえ、彼ら彼女らもそれぞれが一人の人間であって、豊かな感情を持ち、むしろその感情でコミュニケーションを行うことによってNASAという組織が強固かつ柔軟に運営されている様子が見て取れて興味深い。
ローバーの冒険に対してスタッフがワクワクしていたり、不調を真剣に心配していたり、連絡が取れなくなって涙ぐんでいたり、というスタッフの感情の躍動感も見どころの一つだった。
また、オポチュニティは最終的には15年もの長期間稼働し続けることになったが、当然ながらNASAではメンバーがリタイアしたり新メンバーが入ってきたりしており、後ろ髪をひかれるように去っていった人、ニュースでローバーのことを知ってNASAを志し、見事担当を射止めて意気昂揚している若者などの人間模様も優しい目線で描かれていて、いいなあこんな職場で働きたいなあ(エリート集団すぎて無理だけど)と思わせるものがあった。
最後、一台だけ稼働していたオポチュニティが稼働停止するところは、さながら家族の死を看取る感じで、悲しいけれど荘厳で神聖なものを観ているような、そんな気にさせられた。

日本ではモノにも魂が宿る的な考え方は割と一般的だが、アメリカでもそういう見方をするんだなぁというのは新鮮だった。まあでも、けなげに働く機械って、万国共通でかわいいんだね。