観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

三体II 黒暗森林(2008 劉慈欣)

三体三部作の二作目。盛大なネタバレに注意。

前作で地球三体組織は大きな打撃を加えられ、リーダーの葉文潔は逮捕された。葉文潔は逮捕される前、娘の同級生である羅輯に、宇宙社会学の概念と、猜疑連鎖・技術爆発というキーワードをヒントとして伝えた。
地球人類は、三体星人たちの大きな特性として、自らの思考が電磁波として発信され交信する三体人のコミュニケーションの性質上、嘘という概念を知らず、思考=話すことであることを知る。
相変わらず基礎科学を発展させることができず、技術革新を望めない地球人類は、この特性を利用し対抗するため、面壁計画を実行する。面壁人として選出された人物は、莫大な富と権限を与えられ、その代わりに自分の思考内においてのみ三体世界に対抗する考えを立案し、表向きにはそれが悟られないようカモフラージュする。人類が発する情報すべてを智子によって傍受している三体人ではあるが、思考だけは読み取れないことから、裏をかいて勝利するための方策であった。
しかし、三体側も地球三体組織のメンバーよりそれを阻止する人間、破壁人を個々の面壁人へ秘密裏に使わし、ここにその目論見を看破し阻止させようとする。
一人目の面壁人、元アメリカ国防長官テイラーは、大規模な水爆を使った攻撃を考えると見せかけて、その実は三体艦隊へ降伏し、油断したところを叩くものであったが、看破され失敗する。
二人目の面壁人・南米の元大統領ディアス、三人目の面壁人・英国科学者のハインズもまたともに失敗する。
四人目の面壁人として選ばれたのは、特に有名でもなく優秀でもない羅輯であった。彼は最初の数年を面壁者としての特権を活用し、楽園のような場所で美しい妻得て、その間に生まれた子供と過ごすが、長い瞑想の後、ある仮説にたどり着く。そして宇宙に向けてとある通信を発信した後、自分が行ったことに効果が表れるまで起こさないでほしいと言い残し、人口冬眠に入った。
観測により、三体世界から大規模な艦隊が地球に向かってやってくることが改めて事実として明らかになり、地球人類は持てる技術の粋を集め、「大峡谷時代」と呼ばれる暗黒期を乗り越え、発展していった。羅輯が人口冬眠から目覚めた時、地球は大規模な宇宙艦隊を擁立しており、誰の目にも三体艦隊を圧倒するのは自明の理と思われた・・・

この「面壁者」という、世界の命運を、4人いるとはいえ個々の個人に任せてしまうという概念が非常に面白い。大丈夫かよあんたら、とハラハラさせられる。その期待にたがわずほとんどの面壁者は失敗するのだが、ちゃんとその伏線はあとで見事に回収され、その手際が見事である。
また、大峡谷時代を経て、基礎科学がないハンデを乗り越えた地球人類たちが文明を発展させた近未来がどこか懐かしく、70年代に子供の雑誌で見た「未来世界はこんな感じ!」イラストのようなユートピアと、今どきの通信やユーザインタフェースを融合した独特の世界観となっており興味深い。
ほんのワンエピソードとして軽く消化されてしまうアイデア羅輯へ放たれたコンピュータウイルスが長い間潜伏し、この未来世界で発動して彼を殺そうとする、など)が惜しみもなく投入されており、ため息が出るほどである。

最後、大スペクタクルな展開とアッと驚くラストが待っており、人によっては「なんで三体Ⅲを出したのだ。この三体Ⅱで終わりでいいだろ」と言っている人もいるくらい完成度が高い物語の畳み方である。
久々にセンスオブワンダーを感じたSFであった。