観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

三体III 死神永生 下(2010 劉慈欣)

三体III 死神永生 上(2010 劉慈欣) - 観たり読んだり備忘録
 を先に読んでこちらへ来てください。ネタバレ最注意!

 

地球側ではその解読に成功し、地球が生存するには3つの方法があることを知る。
「掩体計画」は、木星などの陰に宇宙ステーションを建造することで、太陽が破壊された際の衝撃を受けずに生き延びる。
「暗黒領域計画」は光の速度を低速にすることで人為的にブラックホールを作り、太陽系が安全であることを宇宙に知らしめる。
「曲率推進」は空間を折りたたみ光と同じ速さで進む宇宙船を建造し、外宇宙へ逃げる。
このうち、「曲率推進」は使用すると宇宙に明確な跡を残してしまい、暗黒森林攻撃を受けてしまうことから中止となる。
技術的に可能な「掩体計画」が実施されるが、その後実行された太陽系への暗黒森林攻撃は太陽(恒星)への攻撃ではなく、太陽系全体の二次元化であり、三次元から二次元へ強制移行させられることは生命の停止を意味する。
程心たちは地球の文化的遺産をできるだけ後世に残すため、冥王星の保管所へ行き、そこで200歳になった羅輯と会う。
そこでは1億年の歳月を経ても人類の文化を残すため、石に文字が彫られ保管されていた。
そのまま滅びに身を任せようとしていた程心と艾AAだったが、乗っていた宇宙船「星環」に曲率ドライブが搭載されていることを知り、雲天明にプレゼントされたあの星へ向かうと、そこには<万有引力>の乗組員だった関一帆がいた。

関一帆によると、すでにその世界では宇宙船<万有引力><藍色空間>の子孫たちがかろうじて住める惑星を見つけて開拓し、居住しているとのことであった。
関一帆は調査のためにこの惑星に来ていたが、関一帆がもともと居住していた世界へ向かう調査のため、艾AAをその惑星に残し、関一帆と程心が少しだけのつもりで宇宙船で飛び立ったが、艾AAが雲天明と邂逅したという知らせを受け、戻ろうとする。しかしそこでデスラインと呼ばれる低速ブラックホールに巻き込まれ、外の世界では1千万年以上が経過した。
もとの惑星に戻った程心と関一帆は、石に刻まれた艾AAの「幸せに生きた」というメッセージを発見する。そこには光るドアが遺されており、その中には一定の広さの敷地ではあるが、橋と箸がつながっていて無限に進むことができる小宇宙が内含されていた。二人はその中で農業をしてつましく生きていこうとするが、10年後、外宇宙からのメッセージが入るのだった・・・

三体及び三体IIがストーリーをメインに読ませる話だとすると、三体IIIはSFを読ませる話であり、読者がついてこれないかも、と作者本人が語っており、確かにそうだと納得する。話が非常にマニアックで、過去の名作SFへのオマージュがいっぱい詰まっていて、それでいてオリジナリティあふれるアイデアと展開がてんこ盛りになっている。もともとSFを読んでいるSF脳の人は抵抗なく受け入れられると思うが、そうでないと辛いところがかなり多い。暗黒森林攻撃をしてくる高位生命体の描写がちょっとだけ出てきたり、過去の歴史的な話をエピソードとしてはさんだりするのは、レンズマンシリーズっぽいなぁと思った。光速で移動すると主観時間と比較して客観時間があっという間に過ぎる、いわゆるウラシマ効果は多くのSFでテーマとして取り上げられており、卑近な例で言うと「トップをねらえ」だろうか(ジョー・ホールドマンの「終わりなき戦い」でもよし)。

それにしても最後の方は三体世界が出てこないな~。目の前で脱水してペラペラになるところを見られると期待していたのだが、その機会には恵まれなかった。
曲率推進ドライブは、ワープとはまた違う(あくまでも船の速度を光速に近づけるための技術)が、「空間を曲げる」あたりで宇宙戦艦ヤマトを思いウキウキしてしまった。
宇宙都市はもちろんガンダムスペースコロニーで、風化したならず者が多く生活する廃棄されたコロニーがテキサスっぽい。だが、それよりは50年近く前に子供雑誌に掲載されていた「これが未来の宇宙ステーション」に出てきたような形の方が本作ではよく取り上げられていたようだ。
また、やっぱり程心と雲天明が結ばれないのはどうかと思った。ハリー・ポッターハーマイオニーが結ばれない的な? でもそのくらいのカタルシスを読者にくれてもよかったのになぁ。
そして高次生命体との邂逅や、自分がそこまで上り詰める的な、ペリー・ローダンっぽい展開もなかった。まあそれをやると三文ヒーローものになってしまうのでやらなくてよし。
石に文字を刻んで、1800万年後に艾AAのメッセージが読めたのは胸が熱すぎる。泣けた。艾AAは現代っ子風でサバサバ割り切った行動が目に付くのだが、実は熱い女性である描写が随所に見られ、いい奴だったんだなぁと改めて好感が持てる。
最後の最後どうなったのかが判然としないまま物語が終了したが、これはこれである意味ゴールであり、ここまでのストーリーを追ってきた読者であれば各自想像できるだろうという任された感があってよい。任された!
しかしすごい話だった。IIまでは中華文化っぽい話だなぁと思っていたが、IIIで突き抜けた感がある。読んでよかった。

気になる艾AAと雲天明の話は二次創作の「三体X」で読めるらしい。公式に認められてハヤカワで出版されているので、いずれ読みたい。