観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

神聖代(1978)

 高校生の頃にはまった作家で、古本屋で探し回って小説を集めまくった。その中でも一番最初に読んだのがこの神聖代。

人々が数多の星々を「大跳躍航法(ビッグ・ジャンプ)によって行き来している星間文明。主人公Kは、首都イジチュールへ「神聖試験」を受けるため、地方の地元から長い電車旅を経てやってきた。申請試験に合格すれば神聖職に登用され、これまでの貧乏な生活に決別できる。試験場には千人を超す人々が、毎年行われる神聖試験へ今年こそ合格しようと群れを成していた。
7日間の神聖試験をなんとか終え、そのあとにおこなわれる合格発表で、Kは自分の名前が「ボッス星研究」部門にあるのを発見した。合格したことを喜ぶKだったが、ボッス星とは何なのか全く知らない。
研究室で赴任してから、異端者と呼ばれるダルコダヒルコの幽霊の出現がささやかれ、やがてKはボッス星の秘密を教わることになる・・・

ヒエロニムス・ボッス(ボッシュ)というルネサンス期の画家の絵「快楽の園」がモチーフとなっており、本作中でも艶めかしい男女の交合がテーマとして取り上げられているのだが、決してエロではなく、心の安らぎや無から有を生み出す奇跡として語られている。
神聖試験を受けている最中、彼が食べるものもなく飢えを我慢しているのを見かねた美しい女乞食が、彼に自分の母乳を飲ませてくれて、それで飢えをしのいで試験を受けた、というエピソードがあり、その(想像した)光景の美しさと母性への回帰願望の充足に衝撃を受けたのを覚えている。
そのあともKは女性及び母性にまつわる様々な体験を経て、最終的にはボッス星でのクライマックスへとつながっていくのがSFとしても素晴らしいし、幻想小説的な雰囲気の味わいもよい。
全編を通してフワフワとよりどころのない、始終夢を見ているのではないかという非現実感の中でストーリーが進行していくのがとても心地よい。実は白昼夢や夢想ではなかったか、という疑いと、今自分が感じている現実、の狭間を絶妙にぼかしながらかき分けていく感じが荒巻義雄の真骨頂で、この感じがとても好きでほかの作品も読み耽ったものである。

神聖代

神聖代