観たり読んだり備忘録

片端から忘れてしまう観たものや読んだものを、記憶にとどめておくためにちょいちょいと走り書きとして残してます。それ以外もちょこちょこと。

グランド・ブダペスト・ホテル(2014)

ほぼ前情報なしでアマプラ評価のみで視聴。

観光名所になっている銅像の前に訪れた女性。それはとある作家の像で、彼がズブロフカにある瀟洒なホテル、グランド・ブダペスト・ホテルへ滞在した際に見聞きしたことをにまとめた本が有名である。その本を読み始める女性・・・
1968年。若き小説家はあまり流行っているとは言えない、シングルの客だけがチラホラと滞在している「グランド・ブダペスト・ホテル」に宿泊していた。そこでホテルのオーナーであり国一番の富豪と言われているゼロ・ムスタファと知り合う。彼もまたおひとり様でよくこのホテルに泊まりに来ているが、オーナーであるにもかかわらず、物置のような小さな部屋に泊まっている風変わりな男である。彼にこのホテルを入手した経緯を聴こうとした作家は、ゼロから夕食に誘われ、そこで長い長い物語を聴くことになる。
1932年、戦争で家族を失い、移民として一人この国へやってきたゼロ・ムスタファは、なんとかグランド・ブダペスト・ホテルのベルボーイとして潜り込み、ひょんなことから伝説のコンシェルジュであるグスタヴに見い出され、仕事の心得やノウハウを教えられながら側近として働く。また、ホテルに洋菓子を仕入れているお店の職人アガサと惹かれあい、付き合うようになる。
ある日、グスタヴはいつものようにホテルの上客であり大富豪の伯爵夫人・マダムDの相手をしていたが、彼女が強い不安を訴え、自分と一緒に帰ってほしいという彼女の願いを軽くいなし、彼女を一人で帰らせた。しかし1か月後、新聞で彼女の死亡時期を見つけ、あの時の不安は根拠があったのだと悟る。急ぎ彼女の家に駆け付けたグスタヴとゼロは、相続金目当ての息子や姉妹たちとの遺産争いに巻き込まれていく、というか積極的に巻き込みに行っている・・・?

とあらすじを書いてみたものの、この映画の本筋はストーリーではなく、舞台装置的な美術と場面転換、カット割りにある。
セリフもかなり舞台口調というか癖のある仰々しい演出なのだが、セットがとにかくもうものすごく豪華で精緻で美しく、カラフルでありながらセンスが良い。それがクルクルと変わる場面転換で惜しげもなく使用されるので、見ている観客はまずそれに圧倒されて感心しため息をつく。
それとは裏腹に大変な早口で勝手なことばかりを言い散らかしているグスタヴと冷静なゼロの掛け合いがアンマッチで面白く、気がついたら「フフッ」と笑ってしまっている。これもまた制作側の意図通りでありちょっと悔しいが、面白いのだから仕方がない。
ただ、ユーモラスなストーリー展開の中にも、戦争で経験した暴力や不条理、お金はあっても孤独な不幸や、出身や階級に対する蔑視やパワハラなどの悲哀も硬軟織り交ぜてくるあたりが徳の高さを一層増している。
一瞬だけ現れる小ネタも随所に挟んであって、とても全部はわからないが、ドイツの人ならだいぶわかるのだろうか。
あとから調べたところ、場面ごとに画面のアスペクト比が変更されており、今どの時間軸の話に移ったかがわかるようになっている。正直よくわからなかったが、おシャンティな演出をするなぁ。
最後、ゼロが小さな小部屋に帰っていくシーンで回収される、ゼロのグスタヴへの思いが泣ける。大団円ではないが、そういう余韻を残して終わるところがまたカッコよく、そりゃベルリン映画祭やアカデミー賞ゴールデングローブ賞を獲るよなぁと納得する出来映えだった。